2019-09-16

[] #78-10「夏になればアイスが売れる」

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俺たちにとっては偶然舞い降りた奇跡といえた。

だが得てして、奇跡だとされる物事見方を少し変えるだけで、ただの偶然になる。

分解していく過程で、くだらない因果の成り立ちが露わになるんだ。

話は十数分前、俺たちがライバル店のアイスを食べていた頃に遡る。

しまった……兄貴に何のバイトか聞いときゃよかった」

弟は自由研究のため俺を探していた。

しかし深く考えずアミダくじで決めたものから、アテもなく彷徨う羽目になっていたんだ。

アミ梯子ちゃんと作らなかったせいで起きた事故である

足を滑らせて、地面に激突するのも已む無しだ。

そもそも何で俺……行き先も知らないのに兄貴候補にしたんだろう」

いや、どちらかというと、弟の足元が覚つかないのが問題か。

何とか降れたとしても、地に足がついていないのでは安心できない。

「あっつ……今年は涼しいだとか言った奴、世が世なら今ごろ死刑になってるぞ……」

汗で服が濡れ、それが身体に張り付き出す。

暑さはもちろん、弟はそのベタついた状態特に嫌いなんだ。

体が冷たいものを欲し、もはや猶予はない状態といえた。

「うん……こりゃ無駄だ。別の人に取材しよう」

時間無駄にしたくないという動機で始めたので、無駄なことを認めるのは酷く抵抗があった。

しかし、さすがに暑さには勝てなかったようだ。

「さて、方針転換したから、今度は気分転換だ」

そう呟きながら、弟は近くにあったアイス屋へいそいそ向かう。

察しの通り、例のキャラメルアイスを売っているところだ。

それはつまり、俺が近くにいる場所でもあった。

目的に近づいていたのに、そのタイミングで諦めてしまうとは何とも間の悪い奴だ。

「お~い、アイスアイス~」

はい、いらっしゃ……げっ」

だがもっと間の悪い奴がいるとするなら、それはアイス売りの男だろう。

「あれ、あんた、どっかで……」

奇しくも、その男と弟は知り合いだったんだ。

そして、それはあまり良い意味ではなかった。

「あ、思い出した! コンブおにぎりの!」

男は依然に働いていたスーパーで、超能力を使って客に嫌がらせをしていた。

物体位置を入れ替える力で、客の買ったオニギリをこっそり昆布入りにしていたのである

それを弟と仲間たちに突き止められるという過去があったんだ。

「ま、まあ、それよりアイスはどうする?」

「いや……やめとく」

実際のところ、現在この男は真面目に商売をしていた。

俺の通う学校でも、食堂でよく働いているのを見かけるし、これ以上ケチがつくような真似はしたくない筈だ。

だが弟からすれば、過去評価払拭できるほどの判断材料は何一つなかった。

「また超能力で、アイスに何かしてんじゃないの? キャラメル味を塩キャラメル味にしたりさ」

「そんなことしないって。何の得があって、そんな……」

損得勘定なんて、悪意という感情の前では何の説得力もないね前科がある奴なら尚更さ」

元々は身から出た錆といえなくもないが、真っ当にやっていることまで邪推され、それを吹聴されてはたまったものではない。

男は居たたまれなくなり、逃げるようにキッチンカーに乗り込むと、どこかへ走り去っていった。

「あー、でもアイスは食いたかったなあ……お、他にもアイスあるじゃん

その後、弟は俺たちと邂逅。

ドッペルと自由研究カブっている(しかも明らかに弟の方が劣化している)ことを知る。

まあ、それはまた別の話だし、それを話すことはもっと時間無駄だ。

今しているこの話にだって大した意味はないんだから

何か意味ありげに話してみただけだ。

それでも言えることがあるならば、意味を持たせるなら自分で行動するのが近道ってことだ。

何でもないようなことを幸せだと思うには、何事も前向きで、相応の工夫が必要なのである

(#78-おわり) ≫
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