2019-09-15

[] #78-9「夏になればアイスが売れる」

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しかし、簡単に見つからいから人は苦悩し、迷走するのもまた真理だ。

客引きしてみます?」

「いや、今日びそういうの印象悪いねん。やりすぎたら何かの条例に引っかかるらしいし」

「では真っ向勝負で、新しいアイスを作ってみますか」

「あっちのより手間と味のバランスがいいものとか、考えている間に夏が終わるわ」

「うーん、そうなると形勢逆転は難しそうですし、場所を変えますか」

「こっちが先にやってたのに何で引かなアカンねん。ここ以上にいい場所なんぞワイは知らん」

「じゃあ、あっちのアイス売りに、別の場所でやってもらうよう頼んでみます?」

「そんな筋合い相手にないし、受け入れるような奴とも思えん。他にアイス売りがいるのに構えてくるような輩や。ゴネるに決まっとる」

「……その可能性はありますが、ダメもとでやってみませんか」

ダメもとでやるにはリスクが高すぎるんや。こじれてるところを客とかに見られたら心象が悪ぅなる」

カン先輩……さっきから“出来ない”と“やりたくない”しか言ってませんが、本気で解決したいと思ってます?」

「それなりの理由があって却下しとんのに、口だけ人間みたいな扱いすんのやめーや」

「なら、せめて代案を出してください。理由さえあれば何でもかんでも否定していいと考えたり、行動が伴わないのは口だけ症候群典型例です。明らかに咳き込んでいる人間が正常を訴えるのは無理がありますよ」

「うおお……マスダ……お前、内心めっちゃキレてへん?」

あーでもないこーでもないを二人で何往復かさせたあたりで、偵察に行っていたドッペルが戻ってきた。

「ふ、二人とも? ちょっといい?」

先ほどとは違ってマニッシュ衣装になっている。

それだけの服を、いつもどうやって持ち運んでいるのだろうか。

「あのアイス屋なんだけど……」

なんやまさか他にも隠し玉があったんか!?

「い、いや、そうじゃなくて……なんか別の所に、い、い行ったみたい」

「なに、どういうことだ?」

まるで解決の目処はついていなかったのに、事態は知らない間に好転していた。

「まあ、“何か”あったんやろな。ワイらには好都合やけど」

「……まさかカン先輩」

「いや、ハチキューサンやないんやから、さすがに裏工作とかはせえへんって。後々のことまで考えるんやったら、そういう妨害行為をすると最終的に損するのが世の常やし」

最終的に損しなければやるとでも言いたげだ。

「なにはともあれ、チャンスや! マスダ、カラメルコーン牛乳こーてこい!」

そして、世の常を語っていた人が言うとは思えないことを口走る。

「あのアイスパクるんですか?」

アイデアの多くは0からじゃなく1から生まれる。この世の99%はパクりで成り立っとるんや。あのアイステレビが先に紹介してたのを真似しただけやんけ。なんでワイらがやったらアカンねん」

大した理屈である

まったく、こういうときカン先輩の弁の立ちっぷりは凄まじい。

俺たちがここで真似する場合は1から始まっていないし、99%だとかい統計は明らかにデタラメだ。

だがチャンスであることは同意なので、俺はいそいそと買い出しに向かった。

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