俺は教材の入ったカバンを机に置いたまま、その輪に勢いよく跳び込んだ。
「そんなに気になるニュースがあったのか?」
だけど、その勢いはすぐに止まった。
何かと思えば、くっだらねえ。
「でも、かなり騒ぎになってるよ」
どこでだよ。
せいぜい、お前らが勝手に騒いでる位だろ。
「少なくとも、子供がハシャげる話じゃないな」
面白みのない話をするくらいなら、授業の準備をしておいたマシだ。
そうして自分の席に戻ろうとした時、タオナケの強烈なワードが俺を引き戻した。
「私も普段ならそう思うけど、ここまでの騒ぎになったのは、あの“M”という人間が裏で関係しているからなのよ」
「“M”……って誰だ?」
「な、な謎の人物なんだ」
俺は“M”の存在を知ったのは、その時が初めてだ。
だけど「謎の存在が裏で関係している」なんてシチュエーションを聞かされたら、さすがに澄ました顔じゃいられない。
「“M”はね。ネットで色んなことを告白をしている有名人なんだよ」
「え、“M”はすごいんだ。ひひ、一言呟くだけで、関係するものは大なり小なり影響を受ける」
「つまり、そいつが『ラボハテ』について喋った結果、ニュースになるほどの出来事になったのか」
すごい力を持っているんだな。
「私、詳しくないけど、いわゆる“インフルエンサー”ってやつね」
「インフルエンザ?」
“M”は人じゃないのか。
「“インフルエンザ”じゃなくて、“インフルエンサー”だよ。世間に大きな影響力を与える人のことをそう言うの」
なんだ、ウィルスじゃないのか。
ややこしい名前つけやがって。
「で、その“インフルエンザ”は……」
「……“インフルエンザー”は」
「混ざってる、混ざってる」
ミミセンがいちいち訂正してくる。
「……で、そのインフルエンサーは」
この時に話の腰を折られたことで、俺の“M”に対する知的好奇心はより強くなってしまう。
ああ、気になる。
何者なんだ、“M”って。
どこで生まれて、どこに住んでいるんだ。
年齢はいくつで、経歴はどんなだ。
性別は男か女か、それともどっちでもないのか、はたまた両方か?
算数の授業中、俺はそんなことばかり考えていた。
自ずと答えの分かる数字の計算よりも、いくら考えても分からない“M”が気になってしょうがない。
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」なんて、マリー・アントワネットは言っていなかったらしい。 なんで彼女のセリフとして広まったかというと、“あいつなら言いかね...
もう終わったら
≪ 前 ところかわって兄貴の学校でも、“M”についての話がクラスで繰り広げられていた。 中でも、兄貴たちの熱量はすごい。 「『ラボハテ』のゴタゴタ知ってるっすか? いやー、...
≪ 前 そうして放課後。 俺は足早に家に帰ると、すぐさま自分の部屋に向かった。 パソコンで“M”について調べるためだ。 「……ギリシャ文字?」 だけど目的の情報が見つからな...
≪ 前 俺は兄貴の言っていたことが気になって、翌日タイナイのところを訪ねた。 兄貴の友達だし、ネットに別荘もってる人らしいから、今回の件についても詳しそうだと思ったからだ...
≪ 前 「ネットにある怪文書の9割は内実そんなもんだよ。結果、真実に近かったとしても、それは賽の目を当てただけ」 それを知った途端、目に映る『Mの告白』の文章が上滑りしてい...
≪ 前 そうして俺が目的地へ走っている時、兄貴は乗り物で優雅に移動していた。 「それで弟は、“M”の話を鵜呑みにする人間が多いのは『奴がインフルエンザだから』って言ったん...
≪ 前 「それに現代のテクノロジーだったら、未来のボクじゃなくても解決できるだろう。そういうことに精通していて、かつキミの要求を快く受けてくれる人に心当たりはないのかい...
≪ 前 ムカイさんは自分の電脳と、ネット回線をケーブルに繋いだ。 もっと大掛かりかと思っていたけど、パソコンとほぼ同じやり方なんだな。 「これが“M”とやらの文書か……では...
≪ 前 「僕が?」 「あの文章が書かれた場所は、この家だってのが分かった。つまり、書いたのもタイナイだろ」 まったく、とんだ愉快犯ピエロじゃないか。 まるで自分が書いてい...