2019-06-29

[] #75-2「M型インフルエンザー」

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俺は教材の入ったカバンを机に置いたまま、その輪に勢いよく跳び込んだ。

「そんなに気になるニュースがあったのか?」

「『ラボハテ』の新プロジェクトトラブルが起きたんだよ」

だけど、その勢いはすぐに止まった。

何かと思えば、くっだらねえ。

企業トラブルなんて珍しい話じゃないだろ」

「でも、かなり騒ぎになってるよ」

どこでだよ。

せいぜい、お前らが勝手に騒いでる位だろ。

「少なくとも、子供がハシャげる話じゃないな」

面白みのない話をするくらいなら、授業の準備をしておいたマシだ。

そうして自分の席に戻ろうとした時、タオナケの強烈なワードが俺を引き戻した。

「私も普段ならそう思うけど、ここまでの騒ぎになったのは、あの“M”という人間が裏で関係しているからなのよ」

「“M”……って誰だ?」

「な、な謎の人物なんだ」

俺は“M”の存在を知ったのは、その時が初めてだ。

だけど「謎の存在が裏で関係している」なんてシチュエーションを聞かされたら、さすがに澄ました顔じゃいられない。

そいつがどう関係しているんだ」

「“M”はね。ネットで色んなことを告白をしている有名人なんだよ」

なるほどネットか、道理で今まで知らなかったわけだ。

見逃した番組を観るときくらいしか利用しないからな。

「え、“M”はすごいんだ。ひひ、一言呟くだけで、関係するものは大なり小なり影響を受ける」

「つまりそいつが『ラボハテ』について喋った結果、ニュースになるほどの出来事になったのか」

そいつ言葉一つで大企業が打撃を受けるのか。

すごい力を持っているんだな。

「私、詳しくないけど、いわゆる“インフルエンサー”ってやつね」

インフルエンザ?」

“M”は人じゃないのか。

そういえばネットにもウィルスがあるって聞いたことがある。

ネットインフルエンザってのは、そんなことをするのか」

「“インフルエンザ”じゃなくて、“インフルエンサー”だよ。世間に大きな影響力を与える人のことをそう言うの」

なんだ、ウィルスじゃないのか。

ややこしい名前つけやがって。

「で、その“インフルエンザ”は……」

「……“インフルエンザー”は」

「混ざってる、混ざってる」

ミミセンがいちいち訂正してくる。

どうでもいいだろ、インフルエンザでもインフルエンサーでも。

「……で、そのインフルエンサーは」

はいチャイム鳴ってますよ。みんな早く、席に着いて」

挙句担任のルビイ先生がやってきて、強制的に中断された。

この時に話の腰を折られたことで、俺の“M”に対する知的好奇心はより強くなってしまう。

ああ、気になる。

何者なんだ、“M”って。

どこで生まれて、どこに住んでいるんだ。

年齢はいくつで、経歴はどんなだ。

性別は男か女か、それともどっちでもないのか、はたまた両方か?

算数の授業中、俺はそんなことばかり考えていた。

自ずと答えの分かる数字計算よりも、いくら考えても分からない“M”が気になってしょうがない。

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