そこでの生活は学校ほどかしこまってはいないが、俺たちにとっては監獄も同然だった。
だが、俺たちは悪いことをしたからそんな場所にいるわけじゃない。
さしあたっての問題は、退屈をどう紛らわすかであった。
現代の娯楽に慣れ親しんだ子供にとって、学童所の空間は何とも味気ない。
いつからあるかは分からないが、どの玩具も使い込まれており、修理された箇所があった。
「へえ、マスダ、糸なしでできるんだ」
あまり興味はわかなかったが、何もしないよりはマシだった。
「すごいなマスダ、もうコマを指のせできたのか」
「ああ、つなわたりも出来るぜ」
学童所内には、それらの技表が壁に貼られており、難易度が設定されている。
誰がどういう基準で設けたのか知らない。
だが、とりあえず挑戦心はくすぐられたし、退屈しのぎとしては十分なスパイスだった。
「そういえば、弟くんはどこで何してるの?」
「ふ~ん、まさか缶ぽっくりで?」
特に缶で作った下駄、通称「缶ぽっくり」は足の一部のように動かせる程だ。
その他だと、少ないが本棚もあった。
「ん~? なんでこのキャラ死んでんだ?」
漫画もあるにはあったが巻数が揃っておらずバラバラで、読んでも話が分からない。
「あのなあ、お前そういうのでハシャぐのやめ……なんでそいつ両方あるんだ?」
そもそも俺たち子供が読むことすら想定していない、ビミョーな内容のものも多くあった。
破れていたり、落書きされていてマトモに読めないものもあったので、あそこは放置に近い状態だったんだろう。
そんな感じで、退屈な環境ではあったが、そうならないようにする余地は多かった。
近くには小さいけれど公園があったし、自由に動ける範囲内には川原やら遊べる場所はたくさんあった。
やれることは、当時の目線から見ても前時代的な遊びばかりだったが、それでも子供たちが昔から親しんでいたモノだ。
俺たちが楽しめない道理はない。
それでも、いよいよ手持ち無沙汰になったら、最終手段。
手持ち式の数取器を、ひたすらカチカチやる。
「兄貴ぃ、いまどれ位?」
「623……4だな」
「少なっ、こっちはもう1000いったよ」
「と言いつつ、いま横のツマミ回しただろ!」
そうして数取器のカチカチ音を聞いていれば、「何か別のことをやりたい」という意欲が湧いてくる。
9の数字が並んだことも一度や二度じゃない。
その頃の名残で、俺の親指は今でも歪な形をしている。
年号が変わる意味なんて分からないけれど、何事にも節目ってのはある。 生まれて十数年しか経っていない俺だって、勿論そうだ。 身長は伸び、それに比例して体重も増えて、ついで...
≪ 前 学童は小学生を預かる場所だが、色んな点で学校とは異なる。 なにせ下は1年、上は6年生までが小さな家屋に収まっている。 通っている学校や、性別だってバラバラだ。 そんな...
≪ 前 妙な風習こそあるものの、学童での活動は義務じゃない。 強制させられる事柄がないのは数少ない長所だ。 ただ、ここでいう“強制”って言葉は、任意の逆を意味しない。 何...
≪ 前 学校とは違うといったが、運動会などの行事もあるにはあった。 他の学童所の子供たちや保護者などが一同に介するため、ある意味では学校より盛り上がっていたかもしれない。...
≪ 前 控えめに言っても、学童生活はしみったれていた。 ただ、しみったれているなりに楽しみな時間もある。 その筆頭はオヤツの時間だ。 「ほーい、みんな皿持ってって~」 ハリ...
≪ 前 週末のオヤツの時間。 その日に手渡されるのは菓子ではなく小銭。 つまり、各々で自由に買ってこいってことだ。 素晴らしき自主性の尊重、放任主義バンザイといったところ...
≪ 前 ウサクは渋いというか、俺たちから見るとビミョーなものをよく食べていた。 パッケージのデザインが一世代前みたいな、俺たちが第一印象で候補から外すような、子供ウケの悪...
≪ 前 とにかく、俺たちはオヤツを効果的に楽しもうとした。 そのために、かなりアウトローなやり方に手を染める者もいる。 「なんか最近、砂糖の減りが早い気がする……お前ら、...
≪ 前 そして話を現代に戻そう。 「兄貴、はいこれ」 ある日、弟が帰ってくるや否や手紙を見せてきた。 ハテナ学童の近くを通ったとき、ハリセンから渡されたらしい。 「あの学童...
≪ 前 元からあってないような気力で来たものの、俺と弟は少し憂鬱になっていた。 ハテナ学童は、もう完全に自分たちから離れている。 とはいえ、うっすら分かっていたことだし、...