2019-05-29

[] #74-2「ガクドー」

≪ 前

そこでの生活学校ほどかしこまってはいないが、俺たちにとっては監獄も同然だった。

小国大国刑務所を比べることに、さして意味はないだろう。

だが、俺たちは悪いことをしたからそんな場所にいるわけじゃない。

償うものなどないし、前向きにやっていく権利がある。


さしあたっての問題は、退屈をどう紛らわすかであった。

現代の娯楽に慣れ親しんだ子供にとって、学童所の空間は何とも味気ない。

玩具けん玉コマ竹馬一輪車が主なラインナップ。

電子とは無縁である

いつからあるかは分からないが、どの玩具も使い込まれており、修理された箇所があった。

「もし、もし、カメよ、カメさんよ~」

「へえ、マスダ、糸なしでできるんだ」

「あったほうが邪魔なんだ、むしろ

まり興味はわかなかったが、何もしないよりはマシだった。

それぞれの玩具を、その時々の気分で遊んだ

「すごいなマスダ、もうコマを指のせできたのか」

「ああ、つなわたりも出来るぜ」

その中でも俺が比較的よく遊んだのは、けん玉コマだ。

学童所内には、それらの技表が壁に貼られており、難易度が設定されている。

誰がどういう基準で設けたのか知らない。

だが、とりあえず挑戦心はくすぐられたし、退屈しのぎとしては十分なスパイスだった。

「そういえば、弟くんはどこで何してるの?」

公園の外をグルグル回ってたよ」

「ふ~ん、まさか缶ぽっくりで?」

「ああ、缶コーヒー自己記録を越えるつもりらしい」

コーヒー!?

弟はというと、竹馬一輪車などの乗り物系に力を入れていた。

特に缶で作った下駄通称「缶ぽっくり」は足の一部のように動かせる程だ。


その他だと、少ないが本棚もあった。

ただ、あまり面白い本はなかった気がする。

「ん~? なんでこのキャラ死んでんだ?」

漫画もあるにはあったが巻数が揃っておらずバラバラで、読んでも話が分からない。

兄貴、見ろよコレ。おっぱいもチンチンも丸出し!」

「あのなあ、お前そういうのでハシャぐのやめ……なんでそいつ両方あるんだ?」

そもそも俺たち子供が読むことすら想定していない、ビミョーな内容のものも多くあった。

破れていたり、落書きされていてマトモに読めないものもあったので、あそこは放置に近い状態だったんだろう。


そんな感じで、退屈な環境ではあったが、そうならないようにする余地は多かった。

近くには小さいけれど公園があったし、自由に動ける範囲内には川原やら遊べる場所はたくさんあった。

やれることは、当時の目線から見ても前時代的な遊びばかりだったが、それでも子供たちが昔から親しんでいたモノだ。

俺たちが楽しめない道理はない。

それでも、いよいよ手持ち無沙汰になったら、最終手段

手持ち式の数取器を、ひたすらカチカチやる。

兄貴ぃ、いまどれ位?」

623……4だな」

「少なっ、こっちはもう1000いったよ」

別に勝負してるわけじゃねえから

「と言いつつ、いま横のツマミ回しただろ!」

そうして数取器のカチカチ音を聞いていれば、「何か別のことをやりたい」という意欲が湧いてくる。

9の数字が並んだことも一度や二度じゃない。

その頃の名残で、俺の親指は今でも歪な形をしている。

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