2018-04-13

[] #54-1「誰も期待していない宗教裁判

本質的意味目的が同じであれば、一つの体系にこだわらなくてもいい。むしろ拘ることこそ、視野を狭くする要因になる」

俺たちの町で活動している、“生活教”とかい教祖言葉だ。

宗教という体系から生活の意義を教えたくて、立ち上げたらしい。

だけど、周りには「ただのウザい奴」だと思われている。

生活教に入信していることを自称する人間たちも、9割は面白半分でやっているだけだ。

なぜなら俺たちの町では……いや、現代社会において宗教時代錯誤から

長い歴史によって文化として根付いたケースもあるけど、その隙間を新興宗教が入り込む余地は全くない。

科学で大体のことは説明できるし、俺たちはそれを深く理解していなくても生きていける。

おんぶに抱っこだと、たまにエセ科学に引っかかることはあるけど、それは別に科学が悪いわけじゃない。

体系にそういった“ノイズ”が入り込んだり、未熟な人間邪魔をするのは他のことにも言える話だしね。

今回の話は、そんな“ノイズ”が生活教に入り込んだ話だ。

まあ、生活教そのものノイズな気もするんだけど。


…………

「さあ、皆さん。生活をより良くするためには、何が必要だと思いますか?」

健康ですか」

「正解です。より厳密に言えば、この“健康”とは身体精神の両方を指しています。まず身体必要ものは何でしょう?」

野菜とか、ですか」

「そうですね、野菜身体に良いとされているもの全般。ですが、それだけでは足りないですよね」

「えーと……運動、あと……あ、睡眠!」

「その通り! では、次に精神健康についてですが……」

教祖は、相も変わらず二流ブロガーライフハックみたいなことを説いていた。

信者たちも面白半分で付き合っているのに、良くあんなの笑わないでいられるな。

「さあ皆さん一緒に、目を瞑って。森羅万象に宿る精霊と魂で共鳴し……おっと、呼吸をすることを忘れないで。愚か者は呼吸することを忘れます

お約束となりつつある精神統一だ。

けど、これに真面目に付き合う人は誰もいなかった。

信者の間では、教祖がこれで目を瞑ったら一斉にその場を離れる、という遊びが密かに流行っていたからだ。

ガキの俺が言うのもなんだけど、ガキくさい遊びだ。

まあ、大真面目に付き合ったなら、それはそれでどうかって気もするけど。

「花の精霊が、皆さんの目や鼻、口から入り込むのが感じるでしょう……」

恐らく気づいているだろうに、それでもやり続ける教祖も大概だよな。

「……さて、今日布教活動はこんなところですかね。あまり悪目立ちすると通報されかねないですし。私個人のせいで、生活教に泥を塗ってしまっていけない」

教祖は、いそいそと退散を始めた。

この教祖世間では「ちょっとウザい奴」で済んでいるのは、こんな風に謙虚なところもあったからだ。

大仰に場所占有したりだとか、商売紛いなことをしているわけでもない。

普段地域イベントに精力的に協力したり、善良な市民であることをアピールしているのも効いている。

ただ街中で声高に叫ぶ、ストリートミュージシャンみたいにしか思われていないってことなんだろう。

教祖的には不服だろうけど、これが生活教の、俺たちの街での日常だ。

……だけど、その日は違った。

ちょっとよろしいですか? 自治体のものですが」

自治体の組員が数名、教祖に話しかけてきたのだ。

「え? 自治体って……どこのです?」

「ここら辺の自治体です」

「いや、『ここら辺』と言われても、たくさんありますし……」

教祖は警戒している。

なにせ、この町には自治体が多い。

中にはヤクザに片足突っ込んだようなのまでいる。

「我々のことはいいんです。こちらの質問に答えていただきたい。生活教が最近、“寄付”という名目商売紛いのことをやっていると連絡を受けましてね」

「ええ!?

おおっと、いつかはやると思っていたが、とうとう馬脚を現したか新興宗教

よく分からないが、いずれにしろ、これは大事になる予兆だ。

俺の野次馬根性が、そう告げている。

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