ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の原作者として
さまざまなインタビューで語られる通り
ここにきて過去の作品が見直され、知る人ぞ知る作品ではなくなっていることを
今回の復刊版の帯には「恋と多様性を描き続けて30年」のコピーがついた。
実際、この『回転銀河』はある高校を主な舞台としたオムニバス作品で、
一巻に収録されているのは、
姉と弟の恋に始まり、男子から男子への感情、女子から女子への感情…などなどさまざまだ。
その「多様性」という言葉の重さに、私個人は少し圧倒されてしまいそうになる。
姉と弟の恋、みたいな題材を扱っても、
なんとなく、いつも、地味だ。
姉と弟の恋のエピソードは、読者のおたより欄で
「そういうことはあるよなあ」と思ったところから始まったという。
そして「なんか地味」な原因でもあると思う。
姉から弟への想いも、
彼等はみんな、「私とは違うそういう人たち」として描かれない。
「そういうこと、あるよね」
そういう視点のまま進められる。
それは「多様性を描いている」といえば確かにそうかもしれないのだが、
「あなたと私は違う、そして認めあおう」という描きかたというよりは、
「私はたまたまそうじゃなかったけどさ、そういう感じになるの、あるよね」
という、まるで友達と雑談しているみたいな、とてもニュートラルな肯定だと思う。
多様性を祝ぐような派手さはない。
地味に、私たちの生活の地続きとして、また私自身のある選択肢として「多様性」はある。
そこに単純にある。
そういう描きかたをする作家だと思う。
そして、それこそが海野つなみという作家の稀有な美点であると思う。
(余談なのだが、2話目の主人公であるイズミという底抜けにいいやつな男子がいる。
めちゃくちゃ落ち込んで半泣きで家に帰って部屋に閉じ籠ってるのに、「にいちゃん!俺のじゃがりこ食べただろ!」と弟にキレられたりする。
そのごく短い家での場面で、隅っこの目立たないところに「ママは後妻」って書かれてある。
彼の家庭環境はそれ以降ぜんぜん話に絡んでこない。
けど、あ、わかる、と少し思った。
イズミという少年の優しさや性格の奥行きが育まれた背景があるんだ、とふと思わされる。
家庭環境が複雑な子は優しい、とか言うステレオタイプな話でなく、ただ、そこに地続きの「多様性」を思わされる)
あるじゃん、こういうこと、という感じで描く。
立ち向かうべき悪習としてでもなく、
陰惨ないじめとしてでもなく、
ただ、あるよね、こういうこと、として描かれる。
「美しき悪魔のような双子」という全然地味じゃないキャラクターが出てくる。
成績優秀冷静沈着、自分達以外に価値を認めない、少女漫画の萌えキャラ煮詰めたみたいなやつらだ。
けれど、彼等も結局この海野ワールドのなかの住人だなーと思ったのは、
彼らの行動はこのスクールカーストにえらく縛られているのだ。
それをしなければ、彼等は自分達の生活を守れないと感じている。
海野つなみはスクールカーストを「そんなのくだらない」と喝破したりしない。
あるよね、そしてそうやって自分を守る人もいるよね。
そこで繰り広げられるのは確かに主人公とヒーローの恋愛なのだけど、
いつもその片隅に、学校という生活のままならなさ、人が人と関わりながら生きていることを描いてきた人だと思う。
恋がすべてにはならないし、恋がうまくいけば生活すべてがうまく回りだしたりもしない。
そういう、どこか突き放したような距離感で描写してきた人だ(だから地味なのだが)(そして地味だから好きなのだが)。
それはたまたま彼女の描いてきたものにそういうメッセージを読み取ることもできたというだけだと思っている。
(めっちゃ細かいところではそれっぽいのあるけど、炊飯器をAmazonで買わないくだりとか)
するっとごくさりげなく描くことができる。
近視眼的ではなく一歩引いた距離で描くことができるだけなんだとおもう。
そこにはスクールカーストがあるし、
同性愛者もいるけど「同性愛ににている名前のつかない感情」もあるし、
男女の間にも恋に似ている恋ではない感情がある。
だって、いるのだ。そういう人は。いるじゃん。
ただ、いるよね、って描く。
それはわかる(『回転銀河』はアナログ時代の作画と思われるため、『逃げ恥』とはすこし感じが違うと思うが)。
けれど、もし海野つなみの絵が恐ろしく緻密な書き込みであったり、生々しく柔らかい描線であったら、
きっと「いるよね、こんな人」のようなある種心地のよい距離感はなかったと思う。
あのどこか生硬な絵柄だからこそ、すっと受け入れられるのだと私は思っている。
そして、あの絵柄だからこそ、時々ぎゅっと心を掴まれるような清潔でうつくしいコマがあることを言い添えたい。
【追記】
ごw本w人wにw見られたwwwww
(センセーショナルに、ことさらお話のために感情を煽り立てたりしない、地に足の着いた視点で描かれている、というようなことを伝えたかったのです)
kissの事情とロマンスのたまごと学園宝島と西園寺さんと山田くんとゴールデンデリシャスアップルシャーベットと豚飼い王子と小煌女が好きです…