この前蓋の裏にヨーグルトがついたまま、ゴミ箱に捨てようとしたら嫁に怒られた。もったいないから、といってひと舐めふた舐めする。猫みたいだった。
それからというもの、俺がヨーグルトを食べる時には必ず嫁がいて、蓋を剥がすのを待っている。蓋の裏を舐めるのは、最早嫁の仕事のひとつだった。嫁はその時だけ猫だった。
嫁は別にヨーグルトが好きな訳じゃない、と言った。だから冷蔵庫のヨーグルトはすべて俺が食べていた。三日後、ヨーグルトのバリエーションが増えていた。
ある日、俺が起きてくると嫁はもういなかった。どこかへ出かけたようだった。俺は冷蔵庫を開けた。ブルーベリーのヨーグルトがあった。黙って蓋を開けて、テーブルの上に置いた。食べ終わった後、嫁がいないことに気がついた。それまで嫁が蓋の裏を舐めて捨てるのを見続けてきた俺には、そのまま捨てることに罪悪感があった。しかし舐めることさえ、俺には抵抗感があった。俺は猫にはなりたくない。