答えにたどり着いた俺はその喜びを分かち合おうと、まずは母さんにそれを話した。
「……って、結論になったんだよ」
「相変わらずの知的好奇心」
母さんの反応は感心半分、呆れ半分といったところだ。
俺にとってはかなりの大発見なのだが、思いのほか薄い反応に肩透かしを食らった。
「という割に反応薄いね」
「いいえ、側面的には意義があることだと思っているけどね」
引っかかる言い方だなあ。
「もしかして本当のゴールを知ってるの?」
「知っているというか、そもそもゴールがあるかも疑わしいから」
ドッペルが言っていたことだ。
だが、その結論では俺は満足できない。
「或いは複数あるのかもしれない」
なんじゃそりゃ。
「いわゆる“人それぞれ”って奴よ」
「え~、その結論は嫌いだなあ」
『人それぞれ』ってのは便利な言葉だ。
けど、それは何も考えていないことを宣言するのと紙一重な言葉でもある。
「そうは言ってもねえ。人によって違う場所や方向を進んでいるし、その臨み方だって違うんだから、ゴールの設け方だって変わるわよ」
「まあ……例えば『婚活』という枠組みで考えるなら、結婚をゴール地点に設けることは理屈の上では妥当でしょう」
ちぇ、なんだよ~、最初にそういう言い方してくれれば、こんなに無駄なことしなくて済んだのに~。
「前提そのものがあやふやでロクに共有されていないものだし、普遍的な答えは出ないでしょ」
「じゃあ、結婚はゴールだっていうのも間違っていないってこと?」
「正解でもないけど、間違ってもいないかな」
「そういう文言、煙に巻かれているみたいで嫌だなあ」
「だって問題の本質はそこにはないもの。いずれにしろ、他人の設けたゴールを腐したりしないことが大事ってこと」
あ……と声が漏れる。
あのジョウって人、それっぽいこと並べてただけで、やっぱり大してモノを考えてなかったんだ。
それに乗せられて、必死に探そうとしていた俺も大概なんだけど。
なんというか、とても疲れた。
結局、今回の捜索で何がゴールか、ズバリと言えるものは見つからなかった。
けど、その道筋がどう出来ているかってことは少しだけ分かった。
もしゴールがあっても、そこにたどり着けるかは分からない。
あの結婚式での新郎新婦だったり、課題の提出期限のために頑張る兄貴だってそうなんだろう。
たぶん、俺にだってある。
それが他の人とは同じなのか、違うものなのかは知らない。
けど自分のゴールが何であれ、走ることを応援したり、ゴールを祝福することはできるんだ。
「それはそれ、これはこれ」ってこと。
あ、このセリフも大概便利だな。
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