2017-04-18

[] #22-1「大炎上時代

「やあ、マスダ」

「あ、センセイ。どうも」

センセイとバスで乗り合わせる。

相変わらずセンセイは新聞を読んでいた。

俺は気になって新聞を横から覗く。

ファイヤーブーム……」

最近、この町では火が流行っていた。

自然災害事故などで起きた炎の様相に、ある種の美意識を感じるだとか。

イマイチ理解に苦しむ概念だが。

「ああ、私も見たことがある」

「また奇妙もの流行ってますよね。そんなに喜々として眺めるようなものじゃないと思うんですけど」

「私も流行には疎い方だが、理由自体は分からなくもない」

理由?」

古今東西。火というのは人間にとって、非常に重要存在だ」

「大昔、獣から身を守るためだとか、明かりにしたり、食物に熱を加えたりとかは習ったことがあります

「ああ、人間に知恵をつけた代表格といってもいい。そして今なお様々な事柄に利用されている。人間にとって火とは、身近な存在なんだ」

「だからこそ惹かれる、と?」

「さあな。だが視覚的に、何かを引き付ける力があるのだろう」

「走光性の虫みたいですね」

「ふっ、案外そんなものかもしれないな」

「でも、こうも繰り返していたら、すぐ飽きそうな気もするんですけど」

「そうだな、同じことはやればやるほどつまらなくなる。そうしてマンネリ化し、徐々に下火となる」

「あ、上手いこと言いますね」

センセイはそっぽを向く。

顔色は窺えないが、耳元が紅潮しているのが分かる。

どうも、そういうつもりで言ったわけではなかったらしい。

「まあ……ブームなんて、いずれもそんなもんですよね」

「そうだな、或いは……」

「なんです?」

「……いや、滅多なことは言うもんじゃないな。忘れてくれ」

その時、バスの揺れが止まる。

センセイがいつも降りる場所に停まったようだった。

「さて、私はここで失礼するよ」

『或いは……』

センセイは何を言うつもりだったのだろうか。


所変わって隣町では、民家から火事が起きていた。

火を目当てに集まってきた野次馬の声が、サイレンに負けないほど鳴る。

その野次馬の中には、弟たちもいた。

「うおー、生の火災だー」

「この規模の生火を見たの初めてかもしれないなあ」

私、女だけどテンション上がる」

「天まで焦がせ~」

「シロクロ、危ないからこれ以上は近づくなよ」

緊張感のないリアクションだが、そこにいる野次馬たちは誰もが似たようなものだった。

それからしばらく経って火が鎮まり始めると、野次馬は徐々にまばらに散っていった。

「いやあ、途中で魔法少女が消火に参戦してきたのは激アツ展開だったなあ」

「正体知っている私たちがいたのに気づいて、バツが悪そうだったけどね」

弟たちが余韻に浸っていたその時である

火事だー!」

弟たち、周りの人たちは、その声の方向に大きく反応する。

本日まさかの2回目!!」

今日は厄日だな。見に行こうぜ!」

次 ≫
記事への反応 -
  • ≪ 前 弟たちは周りの声と動きに追従し、火事の現場へたどり着いた。 しかし、その規模は彼らの期待に応えるような代物ではなく、小さい煙がもくもくとあがっているだけだった。 ...

    • ≪ 前 その頃、俺はタイナイとコンビニ前にいた。 少し前に近くで火事があったことをタイナイが話したがるので、俺は適当に話を合わせていた。 「そういえば疑問なんだが、似たよ...

      • ≪ 前 河川敷に着くと、そこには意外な姿があった。 「カジマ、お前もここに来ていたのか」 「……っす」 だが、カジマは妙によそよそしい。 要領を得なかったが、すぐに理由は分...

        • ≪ 前 俺たちは一所懸命に火を消そうとするが、カジマが動き回ることもあって上手くいかない。 一体、どうすればいいんだ。 「近くに川があるんだから、そこで消せばいいんじゃ…...

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