「やあ、マスダ」
「あ、センセイ。どうも」
センセイとバスで乗り合わせる。
相変わらずセンセイは新聞を読んでいた。
自然災害、事故などで起きた炎の様相に、ある種の美意識を感じるだとか。
「ああ、私も見たことがある」
「また奇妙ものが流行ってますよね。そんなに喜々として眺めるようなものじゃないと思うんですけど」
「理由?」
「大昔、獣から身を守るためだとか、明かりにしたり、食物に熱を加えたりとかは習ったことがあります」
「ああ、人間に知恵をつけた代表格といってもいい。そして今なお様々な事柄に利用されている。人間にとって火とは、身近な存在なんだ」
「だからこそ惹かれる、と?」
「さあな。だが視覚的に、何かを引き付ける力があるのだろう」
「走光性の虫みたいですね」
「ふっ、案外そんなものかもしれないな」
「でも、こうも繰り返していたら、すぐ飽きそうな気もするんですけど」
「そうだな、同じことはやればやるほどつまらなくなる。そうしてマンネリ化し、徐々に下火となる」
「あ、上手いこと言いますね」
センセイはそっぽを向く。
顔色は窺えないが、耳元が紅潮しているのが分かる。
どうも、そういうつもりで言ったわけではなかったらしい。
「まあ……ブームなんて、いずれもそんなもんですよね」
「そうだな、或いは……」
「なんです?」
「……いや、滅多なことは言うもんじゃないな。忘れてくれ」
その時、バスの揺れが止まる。
センセイがいつも降りる場所に停まったようだった。
「さて、私はここで失礼するよ」
『或いは……』
センセイは何を言うつもりだったのだろうか。
火を目当てに集まってきた野次馬の声が、サイレンに負けないほど鳴る。
その野次馬の中には、弟たちもいた。
「うおー、生の火災だー」
「この規模の生火を見たの初めてかもしれないなあ」
「天まで焦がせ~」
「シロクロ、危ないからこれ以上は近づくなよ」
緊張感のないリアクションだが、そこにいる野次馬たちは誰もが似たようなものだった。
それからしばらく経って火が鎮まり始めると、野次馬は徐々にまばらに散っていった。
「いやあ、途中で魔法少女が消火に参戦してきたのは激アツ展開だったなあ」
「正体知っている私たちがいたのに気づいて、バツが悪そうだったけどね」
弟たちが余韻に浸っていたその時である。
「火事だー!」
弟たち、周りの人たちは、その声の方向に大きく反応する。
「今日は厄日だな。見に行こうぜ!」
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