2017-03-30

[] #20-1「帳尻クッキング

その日は料理をしてみようと思った。

大した理由なんてない。

腹が減っていること自体大義名分だ。

いくらでも即席食品がある環境で、料理ほとんどしない俺が「自炊」というカードを切ったのは気まぐれに過ぎない。

ただ、友人のタイナイが少し前に言っていた、意識の高い自炊論をふと思い出したってのはある。

はいっても、あいつみたいに変な背伸びはしない。

料理した感」が大事なのだ


まずはスープだ。

沸騰させたお湯に、コンソメの素を溶かしてみた。

食材からコンソメを作ろうだなんて思わない。

我が家ミソスープだって出汁味噌メーカーの力だ。

実は前に一度、わざわざ煮干や鰹から出汁を取って作ったらしいのだが、「いつもと違う」と俺たちに不評だったせいでやめたらしい。

手間と味が比例しないのは考えてみれば当たり前のことではあるのだが、評価されないことほど調理人にとってツラいことはないだろう。

だが、今回は俺が自分で作り、自分で食べるのでその心配はない。

そうやって思いふけるうちに、コンソメは見る見るうちに溶けていった。

味見するまでもないと思うが、念のため確かめてみる。

「なんだこれ……不味い」

予想外だった。

料理の失敗でよくあるパターンは、大抵「セオリーに則らない」か、「余計なことをする」かのどちらかだ。

当然、俺は説明どおり適量でコンソメを溶かしただけである

いや、もしかしたら俺は何か見落としているのかもしれない。

コンソメパッケージに目を向ける。

書かれている説明イマイチ曖昧だったが、どうもこのコンソメは、ミソスープでいうところの出汁的な存在だったらしい。

コンソメの素はカップスープみたいなものだと思っていたが、そういうわけでもないようだ。

それにしてもコンソメだけだと、こんなに不味いものだったのか。

だが、理由が分かれば話は早い。

要は別の味でフォローさせればよいのだ。

確か、しばらく前に冷凍した野菜が眠っていたはず。

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん