俺はそこまで映画を観るわけではないので相対的にどうかは分からないが、映像は綺麗だし、アクションシーンも盛り上がっていた。
オサカがどう感じたかは分からないが、感想を言いたくてウズウズしているようなので、直に分かるだろう。
席についた途端、オサカはまくし立てるように語り始めた。
「しかし、監督の個性が色濃く出てたな。彼の既存の作品と似ている演出が散見される」
「そうなのか?」
「まあ、元々あの監督の映像作品のルーツは特撮といえるからな」
正直いうと、俺はその監督をよく知らない。
なぜ映画のストーリーだとか内容ではなく、いきなり監督の話をし始めるのか、俺にはよく分からなかった。
監督一人で映画ができているわけじゃないし、映画に出ているわけでもないんだから、他に話すことはありそうなものだが。
「スタッフやスタジオなどの体系から作品を読み取るってのは重要なんだ。特に監督はその作品の核なんだよ。制作途中で監督が変わって、グダグダな出来になった映画を数え切れないほど観てきたからな」
「すまん、ピンとこない」
「まあ、監督の話はほどほどに、ストーリーとか構成の話をしようぜ」
「そうだなあ、アクションシーンは盛り上がっているけれども意外に動的じゃなく、静的な構成だったな……」
「へえ」
「だから登場人物が今回の出来事を経ての精神的な成長は、実のところそこまでじゃないんだ。それぞれが自分の元の人格から構成された言動と、その中で出来ることをやっている」
オサカは喜々として語り始める。
俺は適当に相槌を打ちながら、オサカに奢らせるメニューをどうするか考えていた。
すると突然、後方から妙な怒号が飛び交いはじめる。
その人たちは、恐らく先ほど俺たちと同じ映画を観ていた人だろう。
「なぜ主要人物が男だったところを女ばっかりにしたのか」
「なんだと、女性蔑視だ!」
おいおい、何だか俺たちとはあまりにも別ベクトルなことになっているぞ。
オサカはオサカで気にせず感想を述べようとしていたが、徐々に不機嫌になっていくのが見て取れる。
こりゃあ、オサカが爆発する前に、ここから離れたほうがいいかもしれない。
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