2016-10-28

残酷さを描ききらなかったTVアニメ響け!ユーフォニアム2』#4

エロゲー批評空間https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/)には“なりそこね”というタグがある。名作になりそこねたという意味だが、それに倣うなら神回になりそこねた4話だった、ということになろうか。

映像演出は本当に素晴らしかった。みぞれの頬に落ちる優子の涙、みぞれを暗がりから光の射す場所へとすくい上げる優子、希美の「きゅーん、としてさあ」に撃ち抜かれるみぞれなど判りやすい箇所は言うに及ばず、心情を映し出す表情や、そんな顔をあえて映さず手元の動きで表現するカットなど、画面からにじみ出る感情の豊穣さに圧倒されっぱなしの30分だった。

が、それでもなお神回には届かなかったという結論は変わらず、そしてそれは原作横溢していた残酷さが意図的オミットされていたからに他ならない。

以下、原作ネタバレを含んで感想を書きつける。

 

残酷コンクール

一期からアニメを見てきた視聴者には明白だが『ユーフォ』は残酷さを多分に含んだ物語だ。努力してきたのにパート演奏を外れるよう指示された久美子に、後から入ってきた一年最後コンクールソロパートを奪われる香織。特に香織は、かつての“楽しい思い出づくり”という部の方針によって実力上位にも関わらず上級生へとAメンバーを譲ってきた過去があり、最後コンクールには期するところがあった。しかし新顧問の滝と決めた“全国大会出場”という目標に従って新入生の高坂麗奈ソロパートを吹くこととなった。

どんなに努力をしても席には限りがある。それに自分が座れるとは限らない。『ユーフォ』はそういう物語だ。

そして原作2巻、アニメユーフォ2』では「コンクールってなんだろう」ということを通してソレを照射する。

2巻のメインキャストのひとりである鎧塚みぞれコンクール否定的な考えを持っていた。

「私は嫌い。けっきょく審査員の好みで結果きまるでしょ」

「でも、そういうのなんとなくしかたないかな、って……思っちゃってます

しかたない? たくさんのひとが悲しむのに」

すみません……」

「私は苦しい。コンクールなんてなければいいのに」

はたまた吉川優子は「納得いかないことが多いのは確かなんじゃない。でも、結果がよかったら納得できる。今のあたしたちみたいにね」と前置きして言う。

「みんな夏休みを潰して練習してる。けどコンクールは優劣をつける。(中略)努力が足りなかった、劣ってたってことにされちゃう。超理不尽でしょ。(中略)ただ、去年みたいにみんなでのんびり楽しく演奏しましょう、っていう空気がいいかというとそんなことはなかった」

そして高坂麗奈はこう言う。

「よく音楽は金銀銅とかそんな簡単評価できないって言うひとがいるけど、あれを言ってもいいのは勝者だけだと思う。下手なひとが言っても負け惜しみしかないと思うし。だからけっきょく上手くなるしかないと思ってる。それに、たくさんのひとに聴いてもらえる機会ってそんなにないから。……わたしは好き」

三者三様ではあるが、ここで浮き彫りになるのはコンクール演者の積み上げてきた努力感情に対し残酷に優劣をつける場ということだ。それに傷つく者もいれば、上手くなるしかないと思う者もいる。どちらが正しいとかではなく向き合い方の違いだが、いずれにせよ久美子たちが立ち向かっているコンクールはそういう残酷さを孕んでいる。

 

もっと残酷友情の不均衡

ユーフォ』における残酷さの表現はそれだけにとどまらない。むしろ#4に関してはこっちが本論にあたる。それが鎧塚みぞれと、過去部員大量退部事件の際に吹部を辞めた傘木希美軋轢だ。

軋轢といってもみぞれ一方的感情をこじらせているだけで、希美はそれに気づいておらず今も仲の良い友人だと疑っていない。しかしここではそれに気づかれてさえいないというところがみぞれ絶望をより深くする。

オーボエ奏者である鎧塚みぞれ内向的性格で友人がほとんどいない。そんな自分に声をかけ、吹部へ誘ってくれ、日々を楽しいモノに変えてくれたかけがえのない友人が傘木希美だ。だが希美中学ときに吹部の部長をやるだけあって友人が多く、みぞれはその中のひとりにすぎない。だから上級生と揉めて吹部をやめるときみぞれ相談はおろか報告もしなかった。希美が辞めたことを、みぞれ上級生に訊ねて初めて知った。みぞれ希美の中における自分存在の小ささに酷く傷ついたのだ。しかし、そのことはどこまでも希美に伝わらない。原作から引用する。

もしかして、それでハブられたとか思わせちゃった? ちゃうねんで、そういうんと全然みぞれのこと嫌いとか、そんなんじゃまったくないから! ごめんな、勘違いさせちゃって」

(中略)

 べつに、大丈夫。そう、みぞれが小さく首を横に振った。

勘違いなんて、してない」

この断絶!

みぞれ自分の中の希美と、希美の中のみぞれの大きさの違いに傷ついている。その差の大きさに泣きそうになっている。しかしそんなみぞれ感情は、これっぽっちも伝わらない。

「ほんまに? わたしやばいことやってへん?」

「うん。大丈夫

 みぞれはそう言って、わずかにその目をすがめた。よかったー、と希美がはにかむような笑みをこぼす。その光景に、久美子は静かに目を伏せた。きっとこれから先、みぞれの抱える想いを希美が知ることはないのだろう。そう考えると、舌の裏側がざらりとした。

そばでそれを見守っている久美子には、ふたりの温度差が見えている。が、この歪みはアニメ版からオミットされてしまっていた。

理由はいくつか考えられるし、興味もあるが、ここでそれは論じない。この残酷なシーンには何の意味があるのかということについて考えたい。

 

残酷さの果てに報われるということ

ところで原作を読めばこの場でもっと残酷なのはみぞれだ、というところにだいたい落ち着くと思う。

アニメでもがっつり描かれたが、暗闇でひとり膝を抱えるみぞれを光の射す場所にすくい上げたのは他でもない優子だ(ちなみにみぞれ希美、優子、夏紀は同じ南中出身で、前者の3人は吹部だった。最後の府大会まさかの銀賞を取ってしまい、高校では絶対に金賞を取ろうと約束している(いちおうアニメ版でも僅かに入る回想でそれが判るようにはなっている))。

優子はみぞれに友人として強い好意を持っていた。しかし「だって、私には希美しかいないから」と言われてしまう。「そしたら何! みぞれにとってあたしは何なの!」と優子は怒るわけだが、原作は一歩進んでえげつない

「きちんと話してみ」

「え、でも、」

大丈夫、うちがついててあげるから

 優子は力強く断言すると、ずいとみぞれ希美のほうに差し出した。みぞれがうろたえたように視線をあちらこちらに巡らせる。彼女の細い指が、落ち着きなさそうに優子のセーラー服の裾をつかんでいる。希美はそれに視線を落とし、一瞬だけ切なげに目を細めた。

(中略)

 みぞれの瞳が小さく揺らめく。その唇が、安堵したような息を漏らした。優子の制服から、伸ばされていた手が離される。

みぞれ希美との話し合いの最中、優子にすがっていた。しか希美との和解成るや優子から手を離すのだ。アニメ版あすかが穿ったことを言うのはこのことを指している。

さらみぞれは「もしよかったら、練習付き合ってくれる? 私のソロ、聞いてほしい」と希美に言う。希美から言い出すアニメ版とは逆なのだ

手を伸ばさな希美に、気を良くしたみぞれ自分から手を伸ばす。

この時、自身をすくい上げてくれた優子の手を、みぞれがもう片方の手で握るなんてことはない。優子はどこまでも置いてけぼりにされる。

「私は嫌い。けっきょく審査員の好みで結果きまるでしょ」

しかたない? たくさんのひとが悲しむのに」

「私は苦しい。コンクールなんてなければいいのに」

かつてコンクールが持つ残酷性を批判希美が持つ無邪気な残酷さに涙したみぞれは、希美との形ばかりの和解に舞い上がり、かつて自分が受けた傷を優子につけるのだ。

香織の一番にもなれず、みぞれの一番にもなれない優子。彼女がこんどは残酷さの犠牲となるのか。いや、違う。

「でもさ、みぞれにはあんたが居てよかったと思うよ」

夏紀のひとことが優子を救う。

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希美に向けてみぞれが満面の笑みを見せたとき、その後ろで優子はどんな表情を浮かべていたのだろう。

おそらく。

おそらく夏紀はそれを見ていたはずだ。優子の胸のうちに想いを馳せたはずだ。だから優子の行動をちゃんと報いたのだ。

残酷さの果てには哀しみだけが待っているんじゃない。心でつながっている友人が、あるいは神様がちゃんと見ていてくれて報いてくれることだってあるはずだ。残酷さの先にあるのは希望なのかもしれないのだ。

原作が描ききった残酷さの向こう側。それを零してしまったTVアニメ響け!ユーフォニアム2』#4。

できれば攻めきってほしかった、そう思った。

 

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