大学に勤める僕は大学という密閉された世界で、比較民俗学というさらに密閉された研究に打ち込んでいた。
その国の夏は日本以上に蒸す。粘つく汗をTシャツに纏わせ、僕は目的の村を村長に案内されていた。
朝から歩き通しだった。そろそろ疲れの色が見え始めたとき、共同墓地が目に入った。
頭蓋骨が埋められもせず土の上に山積みになっている。
何より目を引いたのがその色だった。真っ黒に塗りつぶされた骸骨は表情を失い、ただそこにあるだけといった趣だった。
村長に尋ねるとこれが国の風習らしい。近年、欧米の葬儀の様式が伝わってきているとは言え、小さな村ではまだこの方法で死を弔っていた。
肉と繊維を焼かれた骸骨は一部土葬される。そして頭蓋骨だけには炭を塗り、埋められずに墓地へ供えられるという。
死にまつわる全て、悲しみや虚脱、混乱などを黒く塗り込めてやって天国へ送る。
やがてその魂は精霊へと昇華し国の発展と恩恵を与えてくれるという。
やはり現地に来てよかった。僕は満足しながら論文の構成を頭で計算していると、少し離れた脇に白い頭蓋骨があることに気づいた。
その周りを三体の黒い頭蓋骨が囲っている。まだ火葬したばかりの骸骨なのかもしれないと思いつつ村長に訊ねると
「あいつは塗りつぶせないんだよ」
と一言返ってきた。村長の口は重かった。しつこく訊ねると、あの頭蓋骨は生前、人を殺したのだという。
「罪を犯した人間は塗りつぶせない。精霊にもなれない。太陽の光で何百年、何千年かかって自然と黒く焼き尽くされるのを待つんだ」