2015-08-14

母帰る

離婚していた母が帰ってきた。

父と別れて5年になるが、毎年お盆の時だけはやってくる。

1年ぶりに再会する父と母はふたりとも嬉しそうで、

会話もはずんでいる。

「元」夫婦水入らずというやつである

「なんでこうなったのかなぁ」と、私はこの幸せそうな風景を見て思う。

「弟が生きていたらなぁ……」とつくづく思う。

弟は6年前に交通事故で死んだ。

農道ミニバイクで走っていたところ、飲酒運転軽トラックにはねられ、

運悪く次の日に亡くなった。

最愛の息子をなくした母は、弟の死をうけいれられず、しばらく自室にひきこもっていた。

父も私も日中仕事があったので、仕方なく母は家におきざりにしていた。

それがよくなかった。

気がついたら母は酒びたりになっていた。

タカシがね、またお金が要るって言うのよ、海外に行きたいとかって。ほんと困った子だわ。」

「そうか、苦労をかけるな、すまない。」父は母の相手を続けていた。

「そうだ、あの子お好み焼きが好物だから晩御飯お好み焼きしましょう。そうしましょう。」

何故か母は仏壇の下をあけ、「お好み焼きをつくる道具」を探し始めた。

「そんなところにしまたかなぁ」と父は天井を見上げて呟いた。

「もう中国のせいで相場がね、もうほんとにめちゃくちゃなのよ。」

私が知らない間に母はトレーダーになっていた。

「そっか、そうだろうな。」父はまだ天井を見上げていた。


月曜日に母は病棟へ帰る。

それまで私も相手をしてあげようと思う。

お盆から、きっとタカシも帰ってきてるんだろうな。

仏壇遺影を見てそう思った。

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