あの聞いた直後の反応は非常に奇妙な感じでして、これはもうなあんだといわれるかもしれんけど、まっ先には、ああ、これでもう戦争に行かなくて済んだ、死なずに済んだというエゴそのものの感情でしたね。ということは、あの当時のある年齢から上の男、働いているサラリーマンなんかはだれでも持っていたと思うんだけれども、いつまた赤紙がくるかわからない。こんど来たらもうおしまいだという感じがあるわけです。
「今夜はオレの家がやられるか」
「帰ったらオレに赤紙が来てるか」
といいあうのですね。これが「今夜一パイ飲みに行くか」「いや、きょうはやめておく」「じゃ、また」の感じで、ふだんの会話だったのですね。