2014-01-26

エンダーのゲーム』のストーリーに不満のある奴は原作を読むといい

※※※※映画原作ネタバレ注意!※※※※

エンダーのゲーム』の新訳を読もうと思う。十数年ぶりの再読だ。映画は観ていない。

この昼、原作未読のまま映画を観た友人と話した。ご多聞漏れず評価はいひとつだった。そんな彼に向かい、奥深さが足りないのはきょうだい活躍がないせいだろうと言ったら、妙な顔をされた。

——あのとき、あれは『エヴァ』じゃなくて『フルメタル・ジャケット』なんだよと付け加えていたら、同映画好きの彼からは理解の意志さえ望めなかったかもしれない。

テーマ

エンダーのゲーム』というタイトルからはじめる。

ゲームというのは運命比喩だ。ゲームには規則ルール)があり、そこには目に見えない支配者(ルーラー)がいる。『エンダーのゲーム』とは、エンダー=終わらせるものを名乗る少年が、誰かのルールで動かされた人生の終わりを求めて闘うという意味だ。

では何と? 憎き兄か、いじめっ子か、昆虫のごとき侵略者か、それとも戦争強要するおとなたちか。——どれでもない。そんな単純な図式はこの世界にない。

ルールけが意味をもつ世界に、命を与えられた子どもたち。生きるために従い、人であるために抗う。本当の敵が誰なのか、だれも教えてはくれない。どこまでも歪な世界に、しか私たちは強烈なリアルを見つけ出す。

本作が今日に復刻される意味はそこにある。

しかしそれを描き切るには、どうしてもきょうだい二人の活躍必要だ。

エンダー

そもそもエンダーはその生まれから天才でないかぎり存在を許されぬ命だった。

先に生まれた二人の天才児。それに続くことを期待され誕生を許された特別な三人目(サード)。それがエンダーこと、アンドルー・ウィッギン少年だ。社会規範はそれを望んでいなかった。両親もまた同じ。だからエンダーは徴用に応じた。戦争を終わらせるもの=エンダーとしての宿命を受け入れた。ほかの選択肢がなかったからだ。

そのきょうだいピーターヴァレンタインは、常にその先行する分身としてエンダーの将来を写し出す。

ピーター

兄・ピーターはエンダーの鏡像であり、エンダーが認めたくない自己像の投影である(ただし事実においてピーターはエンダーが思う類いの〝人殺し〟ではない)。

その野心が選んだ道は言論による人類思想的支配だった。そうして自らの生を規定ルール)したピーターヴァレンタインを同志に引きこみ、一直線に権力の頂点である覇王(ヘゲモン)』への階段を昇りきる。

十二歳のピーターも、また十歳のヴァレンタインも、電脳世界ではおとなと同じ。彼らはそれを最大限に活用する。『ピーターゲーム』では、勝利することとおとなになることがイコールだ。だから彼は生きることにぶれがない。

けれどエンダーはちがう。おとなたちの期待は彼の意に反する行動を強いる。しかし彼が守ろうとしているのは道徳という、人として正しいあり方だ。

からエンダーは悩み、もがき、ときに逃げもする。だが皮肉なことに、才気あふれる兄と姉による状況認識と優性の証明が、エンダーを戦争英雄に縛りつける。

ヴァレンタイン

その姉・ヴァレンタインは慈愛の両腕と明晰な頭脳を持つエンダーの庇護者であり、最愛のひとだ。その両義性はやはりエンダーと相似する。エンダーが知らないことに、ヴァレンタインのなかにもピーターはいる——彼女もまたペンによって自らの有能を試すゲームに挑んでいるのだ。〝愛情深い〟姉に向けたエンダーの過剰な崇敬は、つまるところ自己愛への飢えに過ぎない。ヴァレンタインがエンダーの善良さに寄せる信頼も同じ。四年を経て面会する日まで、ふたりは驚くほど互いを知らない。

エンダーとヴァレンタインを通じて描かれるのは「人はいかにして殺戮者となるのか」ということだ。エンダーが戦争の術を学ぶのは侵略者からヴァレンタインを守るため。しかヴァレンタインから手紙によって彼女がおとなたちの側にまわったと認めたエンダーは、彼らを打ち倒すゲームに没頭しはじめる。やがてエンダーは彼らのルール破りに失望し、彼らのもとを離れる。彼女にふたたび声がかかるのはそのときだ。

ピーターとの言論活動によって政治的人格を獲得していたヴァレンタインは迷わず務めを果たす。彼女もまたウィッギンなのだ。だが戦場に戻るエンダーのうちに『カサブランカ』のような義心はない。あるのはただ、生かすために殺すという戦争矛盾のものだ。勝利の丘に荒ぶ風は、きっと冷たい。そう確信するから、その先の戦いはどこか空疎に映る。

そして、アンドル

この凄惨物語の結末は、赦しだ。自らの手で滅亡させた異星人たちの遺産から、やっとはじまるアンドルー・ウィッギンの物語。それは茨と十字架の生だ。偉人のままいることもできた。けれど彼は今度こそ選んだのだ。

  • 映画は観ていない。 この昼、原作未読のまま映画を観た友人と話した。ご多聞に漏れず評価はイマイチだった。そんな彼に向かい、奥深さが足りないのはきょうだいの活躍がないせ...

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