2013-07-20

 大学に入った当時のことを彼は思いだした。

 クラス最初に顔を合わせたとき高槻の声が耳元で聞こえた。


「なあ、一緒に飯を食いにいこうよ」


 温かい声がそう言った。

 顔には〈さあ、世界はこれからどんどん良くなっていくんだ〉という、お馴染みの人なつっこい笑顔が浮かんでいた。

 あのとき俺たちはどこで何を食べたんだっけな?

 淳平にはそれが思い出せなかった。

 たいしたものじゃないことは確かなのだけれど。


「どうして僕を食事に誘ったの?」と淳平はそのとき質問した。

 高槻は微笑み、自分のこめかみを人差し指の先で自信たっぷりにつついた。


「俺にはいつでもどこでも、正しい友だちをみつける才能が備わっているんだよ」


 高槻は間違っていなかった、コーヒーマグを前に置いて淳平はそう思った。

 彼にはたしかに正しい友だちを見つける才覚があった。

 でもそれだけでは十分ではなかった。人生という長丁場を通じて誰かひとりを愛し続けることは、良い友だちをみつけるのとはまた別の話なのだ

 彼は目を閉じ、自分の中を通り過ぎていった長い時間について考えた。それが意味のない消耗だったとは思いたくなかった。

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