大学に入った当時のことを彼は思いだした。
「なあ、一緒に飯を食いにいこうよ」
温かい声がそう言った。
顔には〈さあ、世界はこれからどんどん良くなっていくんだ〉という、お馴染みの人なつっこい笑顔が浮かんでいた。
あのとき俺たちはどこで何を食べたんだっけな?
淳平にはそれが思い出せなかった。
高槻は微笑み、自分のこめかみを人差し指の先で自信たっぷりにつついた。
「俺にはいつでもどこでも、正しい友だちをみつける才能が備わっているんだよ」
高槻は間違っていなかった、コーヒーマグを前に置いて淳平はそう思った。
彼にはたしかに正しい友だちを見つける才覚があった。
でもそれだけでは十分ではなかった。人生という長丁場を通じて誰かひとりを愛し続けることは、良い友だちをみつけるのとはまた別の話なのだ。