2011-12-15

夜一通のメールが来た。

ちょうどその時洗濯物をしていたので、後で見ようと放置していた。

段落ついてから、この間飲んだ子からメールかも!

なんてちょっぴりドキドキしながらメールを見た。

差出人:母

タイトル:(文字化け入院

本文:左側が痺れてろれつがまわらなくて、軽い脳梗塞です心臓ペースメーカーを入れているので、MRIは使用できないので詳しい所まで検査が出来ないようです。〇〇病院の8階8H6に入院してます。あんたが来てくれたら元気になるかも(笑)

は?

一瞬意味がわからなかった。

ペースメーカー

脳梗塞

初めてその単語を聞いたかのように全く意味が分からなかった。

倒れたの?

いつ?

なんで?

ペースメーカーって即効いれるものなの?

心筋梗塞??

疑問で頭がいっぱいになった。

親父からは何の連絡も無い。

からの一通の携帯メールで病状を知るなんてあり得るか?

いくら仲良くない親子だったとしても。

メールの受信時間は21時30分。

現在22時。

時間前のメールだった。

洗濯してないですぐに見ればよかったと思った。

こういう時に限って間の悪いメールが来る。

よし、面会に行こう、すぐに。

そう思って病院の面会の時間を調べてみると、面会時間は20時迄。

今はもう23時。

今日はどうやら無理だ。

胸がざわつく。

軽く動揺してる?

でもそれほど慌てていない自分を少し冷たいと思った。

とにかく早く寝て明日病院へ行こう。

明日の朝行くよ。

と、メールして寝ることにした。

布団に入ってからもしばらく色々な思いが走馬灯の様に思い出されて眠れなかった。

まぶたのうらに母の麻痺して歪んだ顔がちらついた。

他に怪我はしてないかな?

親父はとても一人じゃやっていけないんじゃないか

また手伝わなきゃならないのかな?

早く結婚しておけばよかった。

こんな時に家族がいたらきっと心強かっただろう。


朝になった。

時刻はすでに8時を回っていた。

寒さで布団から出られないが、起きなきゃ。

でも、眠気に負ける。

ごめん、おかん、親不孝な俺を許して。

まどろみの中で問答を繰り返す。

10分後、二度目の目覚まし時計ベルが鳴ってやっと起きた。

仕事の支度を済ませる。

いつもは慌ただしい朝だけど、今日はずっと落ち着いていた。

旅行かばんが半分開けっ放しのままで廊下に置いてあった。

明日から旅行準備中だったのだ。

母の様態次第では旅行キャンセルだな。

車に乗り込みエンジンをかけ、一路病院へ向かった。

道中様々なことを考えた。

思えば、ここのところ立て続けに悪いことばかり起こってる。

不況会社をクビになり、実家の布団屋を継いだ。

その2ヵ月後祖母が突然倒れ他界

それから4ヵ月後、妹が離婚して子供3人と実家に戻ってきた。

継いでからちょうど1年後、自分は親父と喧嘩して家を飛び出し、今は運送業で働いている。

母の負担は一気に倍増したはずだ、辛労が祟ったのかもしれない。

俺も加害者だな。

すまない。

母方の親戚には結婚の事、仕事の事で色々言われていたので、また言われるかと思うと気分が重くなった。

病院までは家から15分ぐらい。

そこそこ大きな総合病院だった。

祖母が他界した病院とは違う病院だ。

S病院で祖母は他界した。

そのS病院では祖母の姉も亡くなっていた。

医者も足りず、ほとんど助からない…S病院のいい噂は聞かなかった。

きっと母はそこだけは避けたのだろうと思った。

病院駐車場へ止め、エンジンを切ってドアノブに手をかけた時だった。

昨日よりもずっと強く、悲しみが胸を貫き、涙がこみ上げてきた。

ここに来てようやく実感が湧いてきたらしい。

胸が苦しくなって嗚咽が出た。

しっかりしなきゃ。

母の前ではせめて笑おう。

足取りを確実に、メールに書いてあった8階8H6を目指し院内を奥へ進む。

途中エレベーターに乗り換える。

8階について、一際大きくなる不安と悲しみ。

ここに、変わり果てたおかんの姿が…。

そう思うと足取りがずっと重くなった。

エレベーターを出ると左手ナースステーション

ナースたちが朝のミーティングをしていた。

特に面会についての記述はなかったので、そのまま通りすぎた。

そこから先はE8F8G8H8と4方向に分かれていた。

どこにもH6なんて無い、間違えたのだろうか。

ちょうどそばにいた掃除のおばさんに尋ねてみると、H6は6階だと返答が返ってきた。

メールに書いてあったのは8階。

階は間違ってないだろう…もしかしたら8HとH8を間違えたのかも。

きっと意識朦朧としてるんだろう。

そう思ったら涙が出た。

H8廊下沿いには奥までずらっと両側に病室が並んでいた。

ナース掃除の人が忙しそうに働いている間を抜けて、部屋の上の番号を確認して一歩一歩進んでいく。

誰も自分に興味を示さない。


1…2…


途中目に入る病室の中は、

お歳をめしたご老人ばかりが目についた。


3…4…


近づいてきた。

心臓の鼓動がはっきりと響いてきた。


5…


次だ。


6。


ここだ。

部屋の入口に貼られた名札を確認する。

6人べやで上から順に名札を見ていく。

増田裕子を探した。

果たしてそこにあったのは


増田


公造


…それは爺さんの名前だった。

  • http://anond.hatelabo.jp/20111215141941 増田はこのネタで短編小説でも仕立てて投稿してこづかい稼ぐべき。 ハラハラしながら読んだわ。

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