2011-03-15

世の中は、金だ。

土曜日日曜日も出勤だった。毎日終電まで働かされて、それより遅くまで働いている人もたくさんいて、「つらくないですか?」と訊いたら、「つらいかどうかもあんまり考えなくなった」といわれた。「お給料いし」という人もいた。もらったって使う時間もないのに。寝る時間もなくて身体をこわして仕事をやめた。みんなきちがいだと思った。

わたしは読書が好きだ。音楽が好きだ。コストの低い趣味から文庫本を一冊買って、コーヒーを水筒にいれて、公園ぼんやり読んでいるだけで充分幸せだ。いい家や高い服を得ることで自意識を救おうとする種類の人たちが存在することは知っているけれど、わたしには関係ない。だから、わたしに、必要以上のお金はいらない。

仕事をやめたあとはとても豊かな日々だった。すきな時間に起きて、本を読んで、ときどきイベントライブに行って、ゆっくり食事をつくる。幸いなことに、わたしは女で、彼氏普通にサラリーマンをしているから、このまま結婚すればいいか、とも思った。落ち着いたら書店とかカフェとか、気持ちのいい場所ですこしだけアルバイトをする。彼氏もそれを望んでくれた。そんなとき地震がおきた。

うちは被害の少ない地域だったけれど、大学時代の先輩や、友人が、何人か被災した。みんな無事ではあったけど、家が流されたり、実家と連絡がとれなくなった人もいる。毎日ニュースをみるだけで涙が出てきて悲しくて、余震のたびに不安になって、自分に何かできることはないかと、他の多くの人と同じように、ずっと考えていた。でも、何もない。

ネットには素人ボランティアに対する批判が溢れている。それはおそらく事実だろう。父は建設業だ。被災地に橋をかけることができる。母は看護師で、救護チームとしてすでに活動している。弟は介護士だから、このあと、どこかできっと必要とされるだろう。わたしが働いてきたのは、マスコミや、広告業界の末端だ。情報を伝えてきたのはあくまで所属する組織であり、わたし個人には、なんの技能もない。「芸能人インタビューしたとあるよ★」「いいレストラン知ってるよ★」なんて、いまどき合コンでも使えない。文学部卒の知識は今後復興に活かせる予定もない。わたしはいま、かろうじて繋がれた貴重な電気を消費しながら、なんの生産もせず生きている。

生命の危機を乗り越えたら、こんどは復興のための莫大なお金が必要になる。既に指摘されつづけているように、なんの能力もない素人貢献できる唯一のことは、募金であり、この経済活動の維持だ。そのために、東京23区は(一部を除いて)計画停電の枠組みから外されているのだから

そこで、初めて思った。わたしがきちがいだと罵った人たちは、寧ろ、その人たちこそ、被災地を救う力を持っているのだと。今のわたしには多くの消費をできる力も、募金できる力もない。ここにある100%天然コットンのシャツや、オーガニックコーヒーは、何ひとつ地球を救わない。それが悪いことだとは今も思わないけれど、しかし、文化パトロンがいて初めて成り立つものだ。日常の危機に対して、わたしが大事にしてきたものたちはあまりにも無力だ。

働きたいと思った。自己実現や、キャリアアップ云々ではなく、初めて純粋に、お金を得たいと思った。「家族のために」とボロボロになりながら意味のない労働に励む人たちを、なんて非効率な、とバカにしてきたけれど、ほんとうはわたしにも守りたい人たちがいる。そのためには思想や知識だけではない、現実的な力がいる。わたしはそれを、なんとしても、両立させたい

ちょっと、世の中とかさ、もうだいぶしんどいし嫌になるし朝起きたくないし組織所属するなんてまっぴらだし自由に生きていきたい毎日フジロックだとイイヨネー、とか思ってんだけど、まあ、もっぺん、頑張ってみるよ。こんなにみじめな思いはもうしたくない。

  • 女は人生イージーモードで羨ましい

  • そのとおり。 社畜と罵るニートや学生、資格なき社会人の三者こそが国益、社会益を損ねるがん細胞であり、国家、社会維持のためにもこれらは切除されねばならない。 君は自分で変...

  • いきなり基地外トラバが2つも付いていて吹いた しかしこういう酔っちゃう人の気持ちが分からん。 お前一人が働こうが働かなかろうが、日本にとっちゃ別に何の影響も無いよ。

  • クズすぎて笑った

  • 「出来れば五月一杯、最大限譲歩して七月一杯で辞めます、事業起こすんで」 って言おうと社宅の整理を始めていた三月。まさかこの事態とはなぁ。 幸いに、出資者も婚約者も無事だっ...

  • カネは大事だろうけど、あなたも書いてるように虚業でいくらカネだけふくらましても意味ないんだよ。インフラを支える人と技術がなけりゃね。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん