「何でですか? 批判もありますが、被害者の気持ちを考慮すると…」
「いや、そういうことやないんや…やっぱり、ワシはあかんと思うのよ・・・」
「何がですか?」
「そりゃ死刑や。あんなんやってたら、みんなおかしくなるわぁ」
「おかしくって、具体的には?」
「死を国が与えるわけやろ? そりゃああかんわー。国は死を与えるって」
「はぁ…」
「いや、違うな・・・」
「は?」
「国が死を与えることが怖いんじゃないわ…何か、もっと別のことが怖いんやった」
「何ですか? その怖さって」
「はーっ!!思い出したわ! 国が怖いんじゃない! 存在が怖いんや!」
「存在?」
「Oh! 例えばチミ、数ヵ月後に死刑が執行される人間がいたとしよう。さてこの人は生きているといえるのか?」
「そりゃあ、現時点では生きているでしょう」
「しかし数ヵ月後には」
「……死んでいますね」
「そう。生きているが、しかし死ぬことが確定している。これにより、一緒にいるときも、「この人生きているけど、あと数ヵ月後には死んじゃうだよなぁ…」という惧れが生まれる。この惧れが重要!この惧れが、人間の根底の何かとても重要なところを揺さぶるんや! なんか、死刑囚と話していると、幽霊と話しているような気持ちになるんや!」
「そうや。だから、死刑が決まった死刑囚と、余命数ヶ月の花嫁というのは、存在的に捉えたら結構近しいものがあると、ワシは思うんや。だってそうやろ、どっちも死ぬことが決まってるんやから」
「命は大切なものだからとか、言わないんですね」
「『命は大切なもの』なんてあんた、今日日小学生でもいわへんで!みぃーんな現実と戦ってるんや! 子どもは勉強や仲間内の派閥で!主婦は怠慢や近所の奥さんと見栄を張り合ってるわ! 社会人はこの世を知り尽くした魑魅魍魎たちと生き残りをかけたサバイバルダンスや! どうなるかわかったもんやないわ。そんな時代にあんた、『命は大切なもの』て。あかんで、あんた。それはアカン…そんな発言したら、食い殺されるわ、社会ってやつに…あんたは生きてくれや・・・」
「Hey!おおきに!」