俺にとって母は「母さん」でもなく、「お袋」でもない。
「あの女」
であり、
「あの畜生」
である。
俺は両親ともに虐待されたわけではない。むしろ甘やかされた方かもしれない。
しかし、あれは俺が小学生のころだった。
その夜は風が強かったのを覚えている。
今思えば、原因は色々あったんだろう。
夫である父はあまり家にいない人だった。事業を興したばっかりで、忙しかった頃なのだろう。
俺も母も近所にはあまり友人がいなかった。
親戚との付き合いも希薄だった。
孤独だったんだろう。
そして俺は、そんな環境のせいか、いわゆる
「問題児」
だった。
その日も母は学校に呼び出されていた、様に思う。
その夜、窓の外に強風が荒れ狂う夜、「あの女」は恐ろしい形相で俺に言った。
「一緒に死のう」
俺は死にたくなかった。
どう言えば逆上されないか。
どういえば殺されないか。
必死に考えた。
あの時の恐怖は忘れられない。
「死にたくない」
そう言って、その場はどうにか切り抜けた。
あれから30年。家の中で一回もそのことには振れたことはなかった。
多分、「あの女」は忘れているんだろう。
しかし、俺は忘れたことはなかった。
当たり前だ。
殺されそうになったことを忘れる馬鹿はいない。
「あの女」は俺を殺そうとした。
ずっとそのことが心の奥底に、澱のように沈んでいる。
時々、寝る前に暗い天井を見ながら思い出し、怒りで眠れなくなることがある。
いや、許されるのなら自分の手で殺したい。
勝手に生んでおきながら、殺そうとした。
その身勝手さ。
「畜生」としか言い様がない。
憎い。
いくら憎んでも飽き足らない。
多分、一生許せないだろう。
俺は死ぬまで、「あの女」への殺意を感じながら行きていくのだろう。
新たなプレイに目覚める時が来たのです。