2009-09-02

増田君、“テレビ”はもう、ダメだよ…

ある日、俺の携帯にA君から電話がかかってきました。

A「もしもし。増田君さ、誰か声優を紹介してくんない?」

「あれ、声優方面だったら、A君もいろいろ知っているんじゃないの?」

俺がこう言ったのは、A君のプロダクションアニメ専門でこそないものの、アニメ関連番組を多く手がけているからです。アニメ界に彼は独自のコネがあるので、こういう相談を彼から持ちかけられるのは珍しいことでした。

A「うん。オレの方のツテにはだいたい声かけたんだけど、人手が全然足りないんだよ。べつに売れっ子でなくてもいいよ。こちらの注文で請け負い仕事が可能で、できればエロい声が出せる人。女性に限るけど、年齢は問わない」

「いないことはないけど……何。エロアニメでも請け負ったの?」

A「いや違う。最近、オレ、代理店辞めた友達と組んで、携帯アニメ制作配信会社を始めたんだよ」

「ああ、そうなの。A君も携帯アニメを? そりゃ時代だな。それで、手が足りないってことは、結構儲かってるんだ?」

A「まあね。はっきり言って今はブームだからね。★★★★★って声優、知ってる?」

「ああ、懐かしい名前だね。20年以上前に会ったことある。マイナー系のキャラで結構売れていたな。最近見なかったけど、もしかして★★さんも携帯アニメに出演を?」

A「そう。オレの会社でね。実は★★さん、ここ十年仕事が激減しててさ。一昨年にはとうとう声優の月収が10万以下にまで落ち込んでたんだよ。妻子抱えて途方に暮れて、アルバイトやってどうにか食いつないでいた。奥さんと共働きでさ」

「あの人も俺らと同じくらいの年齢だよね。それで月収10万は、キツイわなあ。声優って、いくら売れた時期があったとしても、潰しが効かないからなあ……」

A「キツイよ。オレが携帯アニメ配信の話を持ちかけたら、なんでもやりますって飛びついてきた」

「それで、うまくいったんだね?」

A「いったも何も、★★さんの月収、今は70万にまで回復しているよ」

「そりゃすごい。本当にブームなんだなあ」

A「まあね。でもオレはさ、この仕事携帯アニメ配信)って一過性の商売だと思うから、ブームはいずれ去ると思っている。それが三年後なのか、来年なのか、来月なくなるかは分からないけど。儲かるうちはやるけど、売れ行きに陰りが見えたら、いつでも会社を畳むつもりだよ。傷が広がらないうちにさ」

シビアだね、いかにも君らしい。携帯アニメ一過性だっていうのは、なぜそう思うの?」

A「いや、これはオレの個人的な印象なんだけどさ。自分で配信していて、こう言うのは何なんだが、携帯アニメが面白いとは、オレ、どうしても思えないのよ。あんな見にくいもの、よくみんな見るものだと思うよ」

「ほう。俺も、普段は携帯アニメなんて見ないけどね。俺の周囲にいるアニメ関係者に聞いても、日常的に見ているって人は皆無だなあ。学生に聞いてもそう。いったい誰が見ているんだろうね」

A「まともなアニメ好きは、みんな携帯アニメなんて見ないよ。アニメはやっぱりテレビで見たいじゃない。携帯アニメを見ている層って、オレたちとはまったく異質な人種だよ。普段からテレビなんて、アニメ含めて見もしないって層が膨大にいるんだよ。アニメなんて、わざわざ時間合わせてまで見るものじゃないと思っている。それが携帯だったら、夜、寝る前に布団の中で落として見れるから、ラクじゃん。課金も一回100円とかだし、携帯料金と一緒に払うから、面倒がない。あいつら、携帯アニメが好きだから見るんじゃなくて、ラクだから見るんだよ。どうせエロ目的だしさ。面白いかどうかではなく、抜ければいいんだよ。」

「なるほど。それでわかった」

A「だから、携帯より、もっとラクで面白いメディアが現れたら、連中、そっちに乗り換えるだけだよ。それがゲーム機なのか、なんなのかはわからないけどさ」

「それで、A君、本業の元請の調子はどうなのよ」

A「あのさ。増田君、“テレビ”はもう、ダメだよ……」

ダメって、どうダメなのさ?」

A「オレの仕事のやり方、知ってるだろ? 放送局からアニメ一本丸請けしてさ。フリー原画家アニメーター集めてローテーション組んで、おおむね7~8ヶ月で1クールアニメを完成させる」

「うん。知ってる。そういう仕事を、常に何本も回していたよね」

A「企画にもよるけど、一話あたりだいたい1500万で請けてたんだよ。これが5年くらい前までの話ね」

「その1500万から、下請けに発注して、残りが会社収入になるわけね」

A「そう。フリーには時間給ではなく原画動画一枚いくらで発注するから、時間はあまり関係ないんだけど、それでも納期があるし、仕事には6ヶ月以上かけないようにはしている。それでも、オレの自主企画の場合、つい1年かけちゃったりするけどね」

「A君は、もともと脚本家だし。自分の企画は、つい自分の作品モードになってしまうのね(笑)

A「それでさ。5年前までは、そのやり方で回っていたのよ。それが今は……。ここ5年で、局から出る経費がどんどん削減されていてさ。今年に入ってから、向こうからの提示額が平均いくらになっていると思う?」

「俺は元請やってないから、よくわからないけど。いくらかな……一話1000万とか?」

A「650万だよ」

「……(絶句)……」

A「今年あたりから、そのあたりの額を言ってくる局が増えた。とてもじゃないが、やっていけない。やるだけ赤字なんて、バカバカしいだろ? だから、オレは今、どうしても断れない相手からの義理仕事以外は、断るようにしている。テレビアニメ制作会社としては、事実上の休業状態だけど、仕方がない。赤字経営よりはマシなんだから」

「それで携帯アニメシフトしているんだな。でも、その携帯アニメも、いずれブームは去ると考えているんだろ? この先どうするのよ?」

A「実は春から、別の仕事も始めたんだよ」

「へ? それは初耳だな。何始めたの?」

A「…オタ風俗だよ。そっち系の知り合いに相談してさ。女の子集めて……」

「……まあ、元手が残っているうちに、何かやっておかないとな……」

A「増田君、今は、綺麗事言っていられる時代じゃない。とにかく生き残ることだよ。綺麗事言うのは、それからでいいよ」

元ネタ竹熊君、“紙”はもう、ダメだよ…(後編): たけくまメモ

http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-d6cf.html

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