G8にオブザーバーとして招かれた中国が、SDRの貿易通貨化を主張するという話である。
SDR(special drawing rights)は、ユーロ、円、ポンド、ドルの4通貨による通貨バスケットと言える。
この合成通貨であるSDRを、実在する貨幣と同様に使えるようにしようというのが、米ドルを基軸通貨から追い落とす中国の次の狙いとなっている。中国は、SDR建てのIMF債を購入することで、IMFの帳簿上にバッファーを作り、外貨準備機構へと切り替えようとしているのである。
SDRが最初につくられた時は、金兌換であった。金の生産量と経済の発展とのアンバランスから、金兌換が不可能になった時点で、国際的な不換紙幣制度を作ることは、不可能となっていた。というのも、不換紙幣制度を支えるのは税収であり、国民を持たないIMFのような国際機関が不換紙幣を発行しても、その裏づけが存在しないのである。
複数の不換紙幣を合成したSDRにおいても、同じ事が言える。IMF債には金利がつけられないのである。もし、金利をつけるのであれば、SDR建てでの貿易決済に対して、一定の比率で手数料を徴収し、それを金利に充当するという手段が必要になる。その手数料を支払ってでも、SDR建てで決済したいという動機がなければ成立しない話なのであるが、中国は、米ドルを基軸通貨の地位から引きずり落とすという目的があり、アメリカの金融機関から貿易決済の実務を取り上げる為に、SDR建てでの貿易決済が実現する事が重要となっている。今の所、SDRはユーロ、円、ポンド、ドルの4通貨による合成通貨であるが、ここに人民元を加えるというのが、次の狙いとなる。
IMFが国際決済機能を持つ金融機関となるというのが最初の前提となるのだが、この決済機能は、国家間の資金移動においてIMFを一枚噛ませて、しかも余分な手数料を支払うという話になる。
通貨とは、一般受容性によって通貨足りえている。人は、通貨を欲しがるのではなく、それを使う事によって入手できるモノを欲するのである。SDR払いでモノを売ってくれる人がいなければ、SDRを幾ら持っていても何の役にも立たない。
SDRが通貨として機能するとしても、需要の少ない通貨は2way-priceのスプレッドが広がりやすく、流通性にかけるばかりか、交換時のレートが悪くなり、不経済となる。
商売には、買い手が強い時期と売り手が強い時期とがある。買い手が強い時期ならば、SDR建てだろうが人民元建てだろうが、どんな通貨でも取り引きを強要できるが、売り手が強い時期には、売り手が指定する国家の通貨でなければ、取り引きが出来なくなる。
米ドルが基軸通貨足りえたのは、ドルポンプとしての日本が存在したからであるが、SDRが基軸通貨になるには、どこの国家がポンプとなるのであろうか。
中国がそれを目指しているのは理解しているが、山塞品と不良品ばかりの中国製工業製品が世界中の人々の物欲を刺激する商品になるとは、考えにくい。それに、それが出来るのであれば、人民元を基軸通貨にしようとするであろう。
SDRの貿易決済通貨化は、米ドルやユーロで大火傷した経験から始まっているのであろうが、その海外資産も、元をたどれば、グローバリゼーションによって、アメリカや欧州に輸出できるようになって手に入れた利益である。
買い手と売り手の力関係を、権力によって管理・強制するというのが共産主義であり、買い手も売り手も努力しなくなり、人々は管理・強制する側になる為だけに努力するようになり、物質文明が衰退するのが共産主義の欠点である。
外部から技術が安価に供与されるという状況が無い限り、共産主義は長続きしないのだが、いったい、中国は、どこからパクり続けるつもりなのだろうか。
グローバリゼーションの終結を告げるG8で、グローバリゼーションの継続と貿易の国家管理、外貨取り引きへの定率課税を訴える中国の空気の読めなさは、清朝時代から変わっていないようである。