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2009-10-16

行政の「クラウド化」は成功するか?

更新6月22日 10:10

ビジネス:最新ニュース


行政の「クラウド化」は成功するか?

 昨年来、日本のIT業界ではクラウド・コンピューティングがブームになっている。最近は短縮して単に「クラウド」と呼ばれることも多いようだ。そして、この業界ではよくあることだが、クラウド・コンピューティングについて、コンセンサスのとれた定義はない。

クラウド定義

 しかしそれでは議論が進まないので、まずはマッキンゼーが発表した"Clearing the air on cloud computing"という資料におけるクラウド定義引用するところから始めよう。大企業でのクラウド利用に懐疑的な見方を示したことで、話題になったリポートだ。

 これによれば、クラウドとは「以下の条件を満たす、情報処理コンピューティング)、ネットワーク記憶装置ストレージ)を提供するハードウエアベースサービス」である。

1. 利用者にとって、ハードウエアの取り扱い(管理)が、高度に抽象化されている

2. 利用者は、インフラコストを経費として支払う

3. インフラに、非常に柔軟性がある(スケーラビリティーがある)

 クラウドと聞いて誰もが思い浮かべるのは、アマゾンが行っている、ネット経由でコンピューティング機能を提供する「EC2」や、同じくストレージを提供する「S3」といったサービス、あるいはウェブアプリケーション開発キットを提供する「Google App Engine」などだ。これらは上記の定義を満たしている。ユーザーは簡単に仮想サーバーや仮想ストレージインターネット上に持つことができ、そのコストは使用量に応じて課金されるのが普通で、企業会計の中では経費として処理される。また、スケーラビリティーがあるので必要に応じてリソースを増やすことも減らすことも簡単かつスピーディーにできる。

クラウド効用

 クラウドがこれだけ話題になるのは、やはり多様な効用があるからだ。

 まず、使いたい時にすぐに利用できる。ハードウエアやソフトウエアの調達は必要ない。ネットワークへの接続や各種環境設定などの作業も不要である。試験的なシステム構築も容易で、使えないと分かればすぐに止めることも可能。費用は、コンピューティング機能やストレージなどのリソースを使った量に応じて課金され、会計上は経費として処理でき、バランスシート上の資産が増えることがない。スケーラビリティーも高い。そもそもインターネットの“あちら側”にあるため、関係者データなどを共有することも容易である。

 さらに、運用業務から解放される。内部統制コンプライアンス法令順守)強化の流れを考えると、利用するサービスが十分信頼できるものであれば、これはメリットが大きい。

 特に中小、中堅企業にとっては、クラウドの持つ機能や信頼性、情報セキュリティレベルは自社システムより優れていることが多い。信頼性や情報セキュリティーに対するユーザーの懸念は、クラウド普及の障害になると考える人が多いようだが、実際には追い風になるだろう。

 こうしてクラウド効用を並べてみると、企業規模が小さい企業ほどメリットが大きいことがわかる。そこで登場するのが、「プライベートクラウド」である。

プライベートクラウド

 プライベートクラウドとは、EC2やGoogle App Engineのような「パブリッククラウド」とは異なり、一つの企業組織の中に閉じたクラウドである。従って、そのコストはすべてその企業組織が支払うことになる。

 たとえば、米国防総省の国防情報システム局(DISA)が保有する「RACE (Rapid Access Computing Environment)」は、国防総省内部向けのクラウドであり、関係者以外は利用できない。実際に構築したのはヒューレット・パッカードであるが、その構築費用国防総省が負担している。

 したがってプライベートクラウドは、最初に挙げたクラウド定義のすべてを満たさない。つまり、条件の1と3(バーチャルサーバーを簡単に構築でき、その規模を自由に変更できること)は満たすのだが、2の条件(コストを経費として支払うこと)を満たさない。

 最初に挙げたクラウド定義を正しいとするならば、プライベートクラウドクラウドではないことになる。

 当然、クラウドメリットであるはずの「使えないと分かればすぐに止めることも可能」「費用リソースを使った量に応じて課金」「会計上は経費として処理でき、バランスシート上の資産が増えることがない」「リソースを増強することも縮小することも簡単にできる」というわけにはいかない。

 もちろん、その組織内の個人や一部局は、クラウドの持ついくつかのメリットは享受できる。使いたいときにすぐに使うことができるだろうし、スケーラビリティーも高い。しかし、組織全体で見た場合にはクラウドメリットの多くの部分は消滅する。

 そう考えると、プライベートクラウドは、仮想化技術を利用したサーバー統合だと考えた方がよいのではないだろうか。

霞が関クラウド自治体クラウド

 さて、2009年度の補正予算には、電子行政クラウドの推進という項目がある。この中に、霞が関クラウド自治体クラウドの構築が含まれている。これはそれぞれ、政府プライベートクラウド地方自治体プライベートクラウドである。

 当然のことながら、パブリッククラウドのように「使えないと分かればすぐ止めること」はできないし、「費用は使った分だけ支払う」わけにもいかない(自治体クラウドについては、各自治体に利用量に応じて課金する方法も考えられるが、利用率が低い場合には、徴収できる利用料が運用コストを下回ることになってしまう)。

 ただ電子行政クラウドにもメリットがないわけではない。分散されたサーバー統合すれば、コンピューターリソースの利用効率を高めることが可能になるし、運用コストを削減できるだろう。また、自治体クラウドを利用して市町村都道府県の業務システムSaaSネット経由でソフトウエアを提供)化できれば、大幅なコスト削減も可能になる。

 「うちの自治体は隣の自治体と業務のやり方が違うので同じシステムでは処理できない」という話を地方自治体関係者から聞くことが多いが、優れたSaaSはそれぞれの組織や業務プロセスに合わせてデータの構成はもちろん、ワークフロー、業務プロセスカスタマイズできる。そうした仕組みを取り入れた自治体向けSaaSを開発すれば、間違いなく自治体情報処理コストは大幅に削減できる。

 問題は、それを実現できるかにある。中央官庁サーバー統合にしても、自治体向けSaaSにしても、机上の計算では、投資に見合う十分なコスト削減効果をはじき出すことはできるだろう。しかし、一歩誤れば稼働率が上がらず、税金無駄遣いだと非難されることにもなりかねない。

民間による電子行政クラウド構築

 そこで提案なのだが、電子行政クラウド構築のリスク民間企業に委ねてはどうだろう。政府が構築するのではなく、民間企業霞が関クラウド自治体クラウドを構築し、各府省、自治体サービスを提供する。もちろん、利用者である各府省や自治体からは利用量に応じた料金を徴収する。当初の構築費用については補正予算を使ってもよいが、数年間で国庫に返納してもらう仕組みにする。

 利用料金は、ある一定の利用率で採算が取れるように設定する。つまり、利用率が予定以上になればその民間企業は大きな利益を得ることになるが、そうでないと損失を被ってしまう。

 つまり、政府自治体プライベートクラウドにするのではなく、政府自治体ユーザーとするパブリッククラウドにするという発想である。こういう仕組みにすれば、構築を担当する企業は知恵を絞り、多くのユーザーを獲得しようと使い勝手のよい電子行政クラウドを構築するのではないだろうか。

このコラム日経デジタルコアによって企画・編集されています。

意見・問い合わせは同事務局あてにお願いします。

[2009年6月22日]

 
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