「ToSTNeT」を含む日記

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2020-10-01

■東証 障害について東証 従業員の立場 から

はじめに

東証従業員として、本日 2020-10-01 のシステム障害によって直接・間接に損害を受けられた方々にお詫びさせていただく。
本「日記」では特に機密情報などは記載しない。
追記あり: 2020-10-02

立場

東証従業員であるが、今回問題となったarrowhead等のシステムを担当している部署（IT開発部トレーディングシステム担当、などと呼ばれる（※ちなみにトレーディングシステム担当部長というポストが存在する））には属していない。IT系の部署には属している。
特に他の東証従業員（というよりは（株）日本取引所グループの従業員、ならびに同社の子会社の従業員）が持つ情報より詳しいものを持っているわけではない。

今回の障害の概要

記者会見（https://www.youtube.com/watch?v=ACFLlMXhlWg などでみられる）および、社内報の一部から得られた情報をもとにしている。

識別名が社内的には「NAS」である機器（一般的な意味とは異なる可能性は、東証システムなので大いにある。記者会見上は「共有ディスク装置」）は1号機、2号機がどうやらあるところ、1号機がハード故障（記者会見場は「メモリ」の故障とのこと。一次記憶装置なのか、二次記憶装置なのかは不明）。
本来そのNAS1号機が死んでも、自動的に2号機に切り替わる想定であった（※そしてそういったテストも通っていた）が、自動的に切り替わらなかった模様。（※なお東証の横山常務（兼JPXのCIO）によればそれらNAS 機器は「両現用」とのこと）
そのNASには横山常務によれば「ジョブ」（※具体的な概念説明は特にされていない）を動かすのに必要な情報などが存在していた。
NASが正常に動いていないことによって（※ジョブが動かないことによって、ということなのかもしれないが不明）、相場配信（※○○の銘柄は現在X円です、やY円のところにP単位の新規注文が入りました、などの情報の配信のことだと思われる）が正常通り動かない。
ここまでの状況から、arrowhead等（ToSTNeT含む）のシステム総体として正常に動作させるには、システム全体再起動が必要と判断した模様。
ただ、システム全体再起動をしてしまうと、東証側システムのステート（※こんな言葉は出てきていないが、おそらく一般的な言葉でいえばこういうことだろう）と、取引参加者（証券会社）側システムのステートとの間でそのままでは不整合が生じることになりそうであるということになり、いくつかの証券会社（※川井役員はすべてとは言っていなかった）に対してヒアリングした結果も踏まえ、システム全体再起動は避けたほうがよい、ということになった。最終的にこれらを受けて、終日売買停止となった。（※当初は「終日」ということではなく、再開に含みを持たせてはいた）
売買停止は、「きれいな」売買停止（※システムが正常に動いているときに売買停止を命じるようなやり方）ではなく、参加者側ネットワークを遮断するというやり方で行われた。
なお、どうやら売買停止後、arrowheadまたはToSTNeTにおいて、非公式な「約定」は発生していた模様。トレーディングサーバ（※3重構成）の障害ではないため。ただしそれらは当然正式な約定ではなく、後続システムにおいて約定データは破棄された。

暫定対処

ハード交換を行う。
そのうえで、今回のような稼働中のハード障害に備え「人手」で監視し、障害が起きたときには手動で切り替えられる状態とする。

個人的な疑問点

ここまでの説明を聞くと、論理的には、NASのハード障害時は手動で切り替えることで、システム全体再起動は不要で、売買停止の事態は招かれない、ということになる。そこまではいいが、ではなぜ今日それを実施しなかったのであろうか。この点は記者会見で2回ほど質問されていたと思うが、東証側は正面からは答えなかった。

個人的な感想等

社会的責任が強く、またJPXグループでまぎれもない稼ぎ頭である arrowhead システムだけあって、JPXグループ内のなかでもかなり手厚いテストが実施されてきていた（※そしてコストがすごく高い）認識であった。それでも起こってしまうのか。
社長なんて、しゃべったこともないけれど、重要りん議の最後に承認してくれた人、ぐらいの接点はあるし、CIOは社内チャットに最近も投稿していた。あのように記者会見で頭を下げる姿を見ると、表しがたい気持ちになる。
他部署なので情報がどこまで得られるかわからないが、どこのベンダの機器で、どこのフェイルオーバー機構に不具合があったのか、発現条件は何か、などが気になる。
- 一般論として、フェイルオーバー機構を作るにあたって、どれだけのケースパターンを想定するのか、というのは問題となりうるところであると思う。今回は、もしかすると想定していないレアケースだったのかもしれない。
JPXグループとしては、取引所ではないPTSに取引を奪われてきている、というのはそれなりに懸案事項であった。例えば、PTSで信用取引ができるようになる、などの規制緩和である。それが本件で世論的にも加速していく材料になるのかな、と思うと、自分の働く会社であるので、自社がまいた種であるのはもちろんだが、やや悲しいところがある。
- ちなみに根底にあるのは、PTSはフリーライド感が強い、ということである。証券取引所として、取引システムの運営にはもちろんお金も人もかけているが、PTSがやらないようなそれ以外にもコストをかけている。
今後の心配もさることながら、終日売買停止はシステム化以後はじめての事象らしいが、損害賠償請求されたらどうなるのであろうか。見守ることしかできないが。（※損害賠償系の質問も、記者会見では東証側は一切正面から答えなかった）
- 東証側は過去ジェイコム事件で、個人的には違和感を覚えるような過失認定をされたことがある。それも踏まえるとさらに不安である。
こういう記者会見、もうちょっとシステム知識のあるメディア・記者が来てもよいのでは。（もしかすると東証側が拒んだのかもしれないが...）

追記 (2020-01-02)

記者会見において配布された資料について

JPXのウェッブサイトに公開された。https://www.jpx.co.jp/corporate/news/press-conference/index.html 経由で https://www.jpx.co.jp/corporate/news/press-conference/nlsgeu000004zjwb-att/20201001_J.pdf

感想等の追加

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/anond.hatelabo.jp/20201001221611より「経営判断に技術理解が必要と認識し歩んだ 15 年間を感じた」... 各種障害を経て、東証としてシステムを理解の度合いを高める、という経営判断のようなものがされてきた、ということもある。蛇足だが個人的にはそこに十分さは感じていない。
同ページより「管轄外のことを勝手に詫びるのもどうなんだろう。」...　基本的に反論の余地もないことである。記者会見で社長が富士通への補償請求のくだりで述べたように、会社のオフィシャルな立場として、またおそらく多くの従業員の認識としても、弊社事業は社会インフラとしての責任の重さがある。そんな中で多方に様々なご迷惑をおかけした今回の障害について、法的責任の所在などといったことはまず置いておいて、一従業員としてはまずは謝罪させていただきたいと考えた。ただ、受け取り手の少なくとも一部、もしかすると多くに対して、こちらの意図とは反してむしろ反感を買ってしまうかもしれない。
同ページより「金融関係者しかも、取引所の中の人が匿名、ましてや個人で情報を発信するな。金融商品を扱ってる自覚あるのか？中身もただの感想文だし。」 ... 個人で情報を発信するな、ということが言われる傾向の高い業種であることは認識している。また、「金融商品を扱ってる自覚」については持っている。
同ページより「手動再起動しなかった理由は、まず障害箇所の特定、手動再起動する場合の手順の準備、影響を洗い出すのに1日以上はかかるから。」 ... おそらくそうだろうと思う。...思うが、そうであればそう説明すればよかったのではないだろうかと思っている。言えない理由があったのか、言ったとしても反論されるのが怖かったのか。
同ページより「全然理解してなさそう」 ... おっしゃるとおり理解する力は高くないため、醜いところをさらけてしまい、申し訳ない。
本ページ「記事への反応」部分「東証はオワコン時代は札証、大証、福証、PTS」 ... 「大証」はもはや会社名としても存在していないし、大阪にある取引所で株の取引はできなくなった。また、名証でも株の取引はできます。
https://anond.hatelabo.jp/20201002101854 「記者会見にくる記者についてですが、専門性とかはちょっと無理。いつもネットワーク障害のニュースがああるならそれだけ回る記者とか居てもいいけどそうじゃないし、せいぜい各記者が雑学を持っているかの話になってしまう。」 ... 大手新聞等のメディアに属する記者については、なるほどと思わされた。一方で、私含め、技術的な背景などを知りたいと感じる人もそれなりにはいるはずで、IT系に強いメディアが入ってもよいのに、と思った次第であった。そういうことになると、別の問題も生じそうではあるが。
https://anond.hatelabo.jp/20201002050126 ... 技術的な点につき推測されており、なんというか、そういったところが気になる...という思いである。残念ながらおそらく公開はされないとは思うものの、おととしの障害に関係した証券会社名が出てきたように、リーク等によって出てくるかもしれない。

Permalink | 記事への反応(17) | 22:16

2019-11-18

■SBI証券、SOR、高速取引の件

わかる範囲で。

はてなブックマーク民は、知らないことを知らないと言えない人間が多すぎ。

なお、筆者は機関投資家勤務、SBI証券に口座はあるけれど（機関投資家勤務なので）売買は出来ない立場。なので、個人のトレーディングには詳しくないところはある。

起きていること

個人で利用できる株式の売買執行市場は、東京証券取引所と、他に私設取引所（PTS）。これらは個人も機関投資家も利用する。

他の売買方法としては、ToSTNeTの利用、証券会社との相対取引、証券会社等が提供するダークプール等もある。ほぼ機関投資家のみが利用するし、利用できる。

今回の減少は、SBI証券で、プリセットの設定のまま、成り行きで売買したときに起きる。

SBI証券で売買する個人は、株を発注するとき（便宜のため、売りオーダーにする。）、スマート・オーダー・ルート（SOR）をONにしたままにすると、東証か、PTSの中で一番良いプライスの市場で売買される。

そこに、従来は「Immediate or Cancel」条件で執行されていたので、発注数量のうち一部でも執行できれば執行して（partial fill）、残りはキャンセルする執行方法だった。

これが、「Time in Force」条件、つまり、一定時間は「成り行きのまま板に晒す」という方法に変えられたことと、加えてその残存時間があまりに短い（日経によれば何百ミリ秒）こと、これが問題となっている。

Time in Force条件そのものは一般的にも使われる取引で、まあ、ノンビリと成り行きで板に晒しておくという意味になる。

ただ、その残存時間がミリ秒の世界になると、実質的には機関投資家のうち高速取引業者（HFT）しか取ることのできないオーダーということになる。

機関投資家が他人の注文をのぞき見することが出来る訳ではない。

A市場とB市場（例えば、東証とPTS）の値段の差をついて、A市場で安く売られている証券を買ってB市場で売ることそのものは、悪い行いではない。

これが流動性の提供につながるし（市場が繁盛する、という意味）、市場間の裁定取引が働くことで値段が収れんするから。

ただ、今回SBIがセットしてた設定は（SORで、TIF設定で、しかも非常に短時間のTIF）事実上、高速取引業者（HFT）のみがテイクできるさや抜きで、不公正という感じはする。

※なお、TIFの残る時間がもっと長い時間だったとしても、結果的にはHFTがオーダーを取るとは思う。結論はかわらないと思う。

問題は無いのか

SOR設定かつ短時間のTIF設定を、利用者にわかりにくい形でプリセットにしていた点は、道義的な非難は浴びると思うが、金融庁や監視委員会が処罰する法令上の理由までは無いと思う。

形式的な該当条文は無い。誠実公正義務くらいしかない（第三十六条　金融商品取引業者等並びにその役員及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。）。

とはいえ、個人投資家も、オーダーの際の条件（SORなのか、TIFなのか、Fill or Kill（一部出来なら約定しない。）なのか etc.）、細かい取引条件は自ら確認する注意くらいは負わないといけないと思う。

改めて、実質的に問題は無いのか

一義的には、金融商品取引法で定め、開示が求められている裁量執行方針に反していないのか、という形式面になる。

https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/home/bm_171129_16.pdf

問題となる可能性があるのはSOR対象銘柄の選定のプロセスの妥当性があると思う。

SOR対象として、東証以外の市場（＝PTS）に回していた銘柄が、本当にそれで良かったのか？　発注者の利益のみを考えた選定だったのか？（あるいは、PTSに参加するHFTに便宜を図ったりしていた形跡がないのか。）。こういう検査は、やった方がいいと思う。

あと、SOR時の利用条件変更の同意の取り方は、不誠実だったと思うので、行政指導がされる可能性はあるかも。

取引所（特に PTS）は・・・

HFTに明らかに有利な執行体系を、特に SBIが使っているXマーケット（個人投資家とHFTが両方利用する市場）で残しておくのは、不誠実かと思う。

明確な法令違反事項ではないが。

海外では、HFTだけだオーダーを取れないように、スピード制限があったりするので、取り入れるべきだと思う。

HFTはなぜ速いか（早いか）

・速いコンピュータを使っている。

・東証が提供する、東証の処理サーバーのラックの至近に、サーバーを設置する権利を借りて、東証の近くでオーダーを処理している。

HFTは必要悪？

たぶん、そう。　HFTが居ないと売買量が減り、個人を含めた参加者の売買がやりにくくなる。

ただ、実際の問題は、今回の報道以外の部分で多々あると思う。

例えばダークプール（証券会社内部で、証券会社が抱える顧客のオーダーを、内部でぶつけて、約定させる。）での取引情報を、一部のHFTが得ているのではないか？という噂は常にある。

ダークプール内での大口オーダーの流れ（例：売りが強い）を見て、つまり市場にオープンになっていない情報を見て、市場で有利執行をしているのではないか？という疑念はある。

Permalink | 記事への反応(4) | 22:06