はてなキーワード: ヘアスプレーとは
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さすがに「モヒカンって…社会人としてどうだろう」と思いましたよ、はい。
そこでオレはある方法を考えた。
この真ん中の髪の毛をもっと伸ばしてキッチリとセンターで分ければ普通の「真ん中分け」なんじゃね?
オレって天才!
そうして、オレは真面目なリーマンのフリをして会社に通い始めた。
自分で言うのもなんだけど、オレは人当たりがよくて礼儀正しいし、要領の良いタイプなので仕事を覚えるのも早かった。
就職氷河期だったので同期はいなかったけど、会社の人達は皆オレに優しくしてくれた。
だけど、ほどなくしてオレはその「優しさ」に苦しむ事になった。
みんながオレと会話する時にビミョウに身体を緊張させたり、視線を泳がせていることに気が付くのにそう時間は掛からなかった。
そうさ、オレの頭は変だったんだ。
所詮はモヒカン。ピッチリと真ん中で分けた毛髪は圧倒的に髪の毛の量が不足していた。
サイドの刈り上がった部分を露出させない為には、髪の毛をガッチガッチに固めて頭部全体に均等に分配しなければいけなかった。
そうして作られた、厚さ数ミリのヘルメットのようなカチカチの「髪の毛の膜」に覆われたオレのヘアスタイルは明らかに異常だったのだ。
(あとから聞いた話では、整髪剤の威力が弱まった夕方などには、後頭部にワレメが出来て内部の「見えてはいけない部分」が露出しがちであったという)
会社の人達がオレの事を「何かの病気」か「ヅラ」だと思っているのは間違いなかった。
彼らは明るく振る舞うオレに気を使って指摘できないでいるのだ。
オレは良心の呵責に耐えられなくなっていた。
GW前に職場の親睦会に呼ばれたが、オレは適当な理由で断った。
気のせいか、オレが参加できない事を告げると幹事のオバちゃんはホッとした表情を見せた。
親睦会の当日に用事があるというのもウソではなかった。
ライブが近かったのでスタジオに入る事になっていたのだ。
オレは集合場所の友人宅へ着くなりカバンからダイエースプレーを取り出した。
「スマン、今すぐオレの髪を立ててくれ!」
昼間の髪型のせいで長くなったオレのモヒカンは、もはや一人では立てる事が出来ず「髪の毛を引っぱる係」「ヘアスプレーを噴射する係」「ドライヤーをあてる係」などが必要だった。
バンドメンバーに髪の毛を任せながらオレは事情を話した。
ヤツラは信じられない程の短時間でオレの髪の毛を立ててくれた。
そして友人の車の後部座席に首を90度に曲げて乗り込む。
もちろん行き先は練習スタジオ…ではなく、職場の親睦会の会場だった。
「いままで黙っていて申し訳ありませんでした。オレの頭はモヒカンです!」
何故だかバンドメンバーも「一緒に謝ってやる」とか言い出して、店まで付いて来てしまったので、全身トゲトゲのコスチュームの4人組が居酒屋でサラリーマン相手に謝罪(土下座のモヒカン)という摩訶不思議な光景になってしまったわけだが…
顔を上げるとみんな大爆笑していた。
数日後のライブには職場の人も何人か見にきてくれた。
みんな本当に優しい人達だった。
そのライブの後、オレは刈り上がっていた部分の髪の毛も伸ばし始めた。
そうして数ヶ月後には見た目は「社会人として」まっとうな姿になった。
今でも音楽活動は続けています。
職場の皆さんありがとうございました。(ああ、ついでに、あのとき一緒に謝ってくれたメンバーも、その、まあ、アリガトな)