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2017-06-06

春の終わりの不倫

日曜日

息子はリトルリーグ試合

妻はその付き添いで、

朝早くから出掛けている。

私はキッチンテーブルに置かれていた

弁当の残り物とご飯を電子レンジで温める。

 

身支度をととのえ、

試合をしているグラウンドとは逆方向の電車に乗り、

終点に着くと、改札の先で、

大学の後輩であり、

友人の妻でもある彼女が待っていた。

 

ジムに行くって出てきました。

ある意味運動するんですからウソじゃありませんよね」

さなスポーツバッグを胸に抱えながら、

いたずらっ子のような表情を見せる彼女は、

サークル勧誘で初めて声を掛けたあのころと、

少しも変わらない。

 

「うわ、日がたかいですね!」

ホテルを出ると、彼女は目を細めながら、

ちょっとうれしそうに、声を上げる。

10分ほど歩いて駅ビルのお寿司屋に入り、

刺身焼き物ビール

運動の後のお酒はおいしいですね」と

冗談っぽくはしゃぐ彼女に、ほほ笑み返す。

 

「じゃあね」と言ったら、

お互い振り向かないのが暗黙のルール

帰りの電車の中で、今日行為を思い出す。

 

妻も息子もまだ帰ってきていなかった。

冷蔵庫からビールを取り出し、

一口つけたとき、不意に、

部下から打診されていた結婚式スピーチ

引き受けよう、という気持ちになった。

社内恋愛で、2人とも直属の部下だったから、

私以上の適任はそういないのだろうが、

不倫している私に何かを語る資格などないのでは、と

逡巡していたのだ。

 

スピーチの件、引き延ばしにしていて申し訳ない。

私でよければ引き受けます

家内に話したら『ぜひやりなさい』と怒られました」

即答しなかった言い訳に、

少しだけウソを交ぜてメール送信

そのすぐ後に、どろどろになった息子を連れて妻が帰宅

「ただいまー!」

「おかえり」

「ただいま。今日は何してた?」

「部屋の中でごろごろしてたよ。さっきからビール飲みはじめた」

妻は少しだけ非難の表情を作ったが、本気で怒ってはいなかった。

「これから夕ご飯にするから、○○(息子の名前)をお風呂に入れてあげて」

了解!」

 

夕ご飯は値引きシールが貼られたパック寿司

これはこれでうまい

赤霧島』をロックで飲みつつ、

『おんな城主直虎』『NHKスペシャル』そして

スポーツニュースをだらだら見ていたら、

メールの着信音。

 

「おつかれー。今どうしてる?久しぶりに会いたいね

何てことのない文面の差出人は、彼女の夫、

まり、私の友人からだった。

 

1年以上連絡してないのに?

なぜ?

今日

このタイミングで?

 

まさか……。

 

このメールにまだ返信できずにいる。

 
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