はてなキーワード: 積乱雲とは
茹だるような暑さ、積乱雲、夕焼け、屋台の熱気、盆踊り、始まりと終わりの境が判然としない花火大会。
金魚みたいにカラフルな帯をしめた浴衣姿の子を連れた女性。彼女を連れているのが、同級生であることに気づく。
突き刺すような太陽光と入れ替わりに辺りを包んだ優しい闇に誘われ、祭り気分を味わいたい人々が続々と戸外へ繰り出す。ワンマイルウェアに身を包んだ老若男女、体操服で屋台に繰り出す中学生、社命で祭りに参加した地元企業の若手社員、支持基盤のイベントは全通を旨としているのであろう市議会議員。この町のどこにこれほどの人が潜んでいたのかと驚く。
完璧。夏が始まる前から求めて止まなかったのだ。この空気感を。
あとは焼きそばだけがあればいい。夏祭りを完結させよう。地元有志が出す屋台を覗く。
ない。
枝豆、りんご飴、フライドポテトに金魚すくい、フランクフルト、ビールに白玉団子に鮎の塩焼きまであって、焼きそばがない。全ての臓器がレッドカーペットを敷いて焼きそばを迎え入れる準備を整えているのに肝心の焼きそばだけがそこにいない。もう麺ならなんでもいい。浮気を決意し、近所のラーメン屋に片っ端から電話をかけた。「貸切」「売り切れ」「食べ物がほとんどない」時刻は20時。丸見えの繁忙期を前に、どんな作戦立てて戦に臨んだらそうなるんだ。実家まで徒歩20分の距離でこんなにひもじい思いをする日が来るとは思わなかった。朝からパフェとクッキーしか食べていない上に、夕方炎天下で全力ダッシュをした後の空腹感はもう無視できない。
浮気心を捨て冷静になった頭で今夜やきそばにありつく方法を再考する。近くにコンビニがある。コンビニにはカップ焼きそばがある。見えた。願わくばゆっくり食べられる場所が欲しい。悩む我々の隣をその辺に住む知り合いが通りがかった。彼を逃す手はない。挨拶もそこそこに、「あなたの家で今からカップ焼きそばを作らせてほしい。」と頼み込んだ。暑さで頭がおかしくなった人みたいな頼みを彼は快諾してくれた。神だ。もしくは頭が暑さでやられていたのかもしれない。
神に供える焼きそばも買い込み、意気揚々と神の家へ上がりこむ。カップ焼きそば用のお湯を沸かす間に神は飢えた人間に食べ物を振舞ってくれた。
神の生活水準は高かった。
無添加の佃煮、火照った体に心地よい喉ごしのもずく酢、余りものだという炊き込みおこわのおにぎりを手際よく並べ、産直で見たことがある体に良さそうなお茶を人数分のグラスに注ぎ、遠慮せずに食べなさいと言った。歪だけどハリがあって味が濃そうなトマトを切る係を仰せつかった私は、嘘みたいに切れ味の良い包丁でトマトを切り分け、作家ものの器に不恰好に盛り付けた。この空間にカップ焼きそばを持ち込んで本当にごめんなさいとみんなで神に謝罪した。いいよいいよと神はわらった。
恥と共に飲み込んだカップ焼きそばは相変わらず駄菓子みたいでおいしかった。神に会う前だったら食事としておいしいと感じただろう。夏は人を少し大人に変えるな。と感傷に浸っていたら、神から「人生はあっという間だから、毎日ちゃんと生きなさい。」という言葉を頂いた。神は手厳しくて優しい。
買い物しようと街まで出かけたが
Amazonでの販売価格よりも店頭価格が安かった場合には購入を考えている商品を見に、街まで出かけたが、
Amazonでの販売価格は12,158円、店頭での販売価格は10,980円+税で合計11,858円。
店独自のポイントシステムも含めると、これは店頭が断然お得と判断したので購入を決意する。
財布を忘れて
程なくして財布を自宅に忘れていることに気付く。
普段はカバンに入れっぱなしなのに、昨日自宅でネットショッピングをする際、クレジットカードのセキュリティコードを確認するためにたまたまカバンから出し、その後机に放置してしまったらしい。
すぐ片付けておけばと後悔。そして少しの間絶望していたが、ふと、数ヶ月前キャンペーンに乗じてPaypayで1度だけ決済をしたことを思い出す。
最近やたらと電池の減りが早いが、肌身離さず持ち歩いているスマホが役に立つ場面が来た。
久々にアプリを立ち上げると残高は884円。
操作感を思い出しながら、登録した口座から決済に必要な11,000円のチャージを試みるも、「現在ご利用を制限しております」との文字が。
もう一回試みる。ダメ。額を変えてもう一回やってみる。またダメ。いくらやってもチャージができない。
愉快なサザエさん
財布を忘れるというミスを犯した後せっかくリカバリーの策をひらめいたのに、思い通りにいかない。平静を装うが心中はこの上なく不愉快なサザエさん。
みんなが笑ってる 子犬も笑ってる
腹の虫が収まらず、電子決済システムの使い辛さに対する不満をSNSでぶちまけた。しかし、同情の声も一部では上がったものの自業自得、理解力不足の声が相次ぎ、みんなの笑い者となる。
ルルルルルル 今日もいい天気
今日はいい天気だと思っていたが不幸は重なり、帰り際に数十年に一度のゲリラ豪雨に遭遇。
しかし度重なる不幸への対処で、生命線であるスマホの充電を使い果たしていた。今日に限ってモバイルバッテリーも持っていない。
交差点を見渡せば、水しぶきを上げながら通行する車にスマホのカメラが向けられている。
今となってはPayPayのわずかな残高を使ってカフェで雨宿りすることも、雨雲レーダーを確認することも叶わず、ただただ真っ黒な積乱雲が通り過ぎるのを待つしか無いのであった。
積乱雲を見るたびに空の国を想い出す
アウフヘーベン | ドイツ語で「拾い上げる」「廃止する」などの意。哲学用語としては「止揚(対立する諸要素を発展的に統一すること)」と訳される。小池百合子都知事が会見で用いた。 |
○○ファースト | 「○○第一」「○○優先」といった意味。特に「都民ファースト」は小池百合子都知事のスローガンとなり、政党名にも使われた。 |
インスタ映え | SNS「Instagram」に写真を投稿したときに見栄えがする、いかにも注目を集められそうだ、といった意味。 |
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うつヌケ | 同名の漫画のこと。漫画家・田中圭一の作品で、うつ病から脱出した人たちの体験談を描いてヒットした。 |
うんこ漢字ドリル | 全ての例文に「うんこ」という単語が用いられている小学生向けの漢字ドリルで、その奇抜な内容から大ヒットした。 |
炎上○○ | 「炎上商法」「炎上芸人」など、インターネットでの炎上を逆用する諸行為のこと(…か?)。 |
AIスピーカー | インターネットに接続され、音声操作でAIを利用できるスピーカーのこと。Amazon EchoやGoogle Home、Apple HomePodといった商品が発売・発表されている。 |
9.98(10秒の壁) | 今年9月に桐生祥秀が出した男子100m走のタイム。これまでの日本記録を上回り、日本人で初めて9秒台に突入した。 |
共謀罪 | テロ等を未然に防止するため、組織犯罪を計画した段階で処罰できるとする法律のこと。多くの反対意見もあったが今年6月に国会で可決された。 |
GINZA SIX | 今年4月に開業した銀座の複合商業施設のこと。 |
空前絶後の | お笑い芸人・サンシャイン池崎のギャグ。昨年末の「絶対に笑ってはいけない科学博士24時」に出演したことでブレイクした。 |
35億 | お笑い芸人・ブルゾンちえみのギャグ。世界中の男性の人数を指している(70億の半分)。 |
けものフレンズ | 同名のアニメのこと。同プロジェクトのゲームが既に終了するなかで今年1月から放送され、クチコミにより広まり大ヒットした。 |
刀剣乱舞 | 同名のブラウザゲームのこと。2015年の流行語大賞でも「刀剣女子」がノミネートされている。 |
Jアラート | 全国瞬時警報システムの通称。北朝鮮のミサイル発射実験により発動したことで話題となった。 |
人生100年時代 | 100年後には平均寿命が100歳になっているとの予測を受けて、日本政府が今年9月に「人生100年時代会議」を開催した。 |
睡眠負債 | スタンフォード大学の研究者が提唱したもので、少しずつの睡眠不足が積み重なることで大きなリスクとなっているとする考えのこと。 |
線上降水帯 | 積乱雲が次々に発生して長さ数十から数百kmに及び線上に連なる現象のこと。ゲリラ豪雨の原因とされる。 |
忖度 | 他人の心情を推し量ること。森友学園の問題に際して「上役の心情に配慮すること」というやや違った意味で人口に膾炙した。 |
ちーがーうーだーろー! | 当時衆院議員だった豊田真由子氏が秘書へ放った暴言のひとつ。秘書への暴行も報道されて責任問題となった。 |
魔の2回生 | 2012年に初当選し、2014年に再選された自民党の2回生議員のことで、不祥事が多いためにそう呼ばれるようになった。 |
働き方改革 | 日本政府が推進する改革で、日本の労働環境や慣習を抜本的に見直そうとするもの。長時間労働の解消、非正規雇用の解決などを目指す。 |
プレミアムフライデー | 個人消費を喚起するため政府および経済界が提唱したもので、毎月末の金曜日は午後3時に終業するよう企業に求めるキャンペーンのこと。 |
ハンドスピナー | ボールベアリングに「羽」を付けた玩具で、基本的には回転させるだけの手慰みとして使う。 |
ひふみん | 将棋棋士・加藤一二三のニックネーム。今年6月にプロを引退した。その特異なキャラから人気となり、バラエティ番組などにも出演している。 |
藤井フィーバー | 将棋棋士・藤井聡太が史上最年少でプロとなり、デビューから無敗のまま公式戦最多連勝記録を打ち立てたことで話題となった。 |
フェイクニュース | 虚偽の情報を多分に含むニュースのこと。特にアメリカ大統領選において様々なフェイクニュースがSNSで拡散されたことが問題視された。 |
ポスト真実 | 客観的な事実よりも自身の感情に訴える虚偽を信じやすい状況のこと。アメリカ大統領線やイギリスのEU離脱にまつわる中でよく用いられた。 |
ユーチューバー | 動画投稿サイト「YouTube」からの広告収入で生活をする動画投稿者の総称。ヒカキン、はじめしゃちょーなどが著名。 |
ワンオペ育児 | 「ワンオペ」とはもともと飲食店を一人で回している状態(ワン・オペレーション)のことを言い、転じて夫もしくは妻が一人で育児を行っている状況を指す。 |
それは昼下がりのマクドナルドでのことであった。
わたしがいつものように夏の暑さとセミの音と夏休み乱交合宿の打ち合わせにはしゃいでいるヤリサー学生どもを呪いつつマンゴースムージーをすすりながら次の次の次くらいのどうでもいい会議書類に目を通していると、どこからか甘く懐かしいささやき声がひびいてきた。
そ、その声ーーあなたはうん子!
「よかった。おぼえていてくれたのね。忘れられちゃったかもと思ったけれど……」
忘れるわけはない。
うん子はうんこの精霊である。うんこに関するあらゆる事象を司り、時に歴史の流れを決定づけるほどの暗躍を果たしてきた。
カエサル、ナポレオン、徳川家康、コロコロコミック、ドナルド・トランプ……偉人たちの便意と決断の裏には常に彼女の姿があったといっていい。
わたしの人生においても、常にうん子の助力があった。そう、幼稚園でのお遊戯の時間にうんこを盛大に漏らしてから、小二の給食、小五の運動会、中一の合唱会、高一の塾合宿ーーずっとわたしとうん子はいっしょだった。
唯一の友達だったといってもいい。
心無い同級生から「うんこ」「うんこ漏らし」「下痢便カレー」「うんこに愛されし子」「ザ・うんこ」「進撃のうんこ」「逢うんこ時うんこ園(ジャンプの打ち切りマンガにちなんだあだ名は他にも30ほどあった))「うんこ界の稲尾和久(約三日に一度のペースで漏らしていたため)」などと残酷なあだ名をつけられ、うんこにちなんだいじめを散々受けていたわたしに近づくものなどいなかった。
だが、気にしなかった。彼女と一緒にいたころは、うんこを漏らすことがはずかしいことだなんて微塵も思っていなかった。
パンツを茶一色に染めたことで母親からものすごく叱られて、ひとり部屋で泣きはらしていた夜にも彼女は現れ、
「うんこを漏らすことをできるのは、選ばれた子どもだけなのよ」と、励ましてくれた。
うん子さえいれば、わたしは他に誰もいらなかった。
だが、いつのころからだろう。おとなになるにつれて、わたしには彼女の姿が見えなくなり、彼女の声が聞こえなくなった。
大学生から社会人になる過程で段々と「ほんとうはうんこを人前で漏らすのははずかしいことなんだ」という意識が芽生えるようになり、今の職場の面接を受けるさいの「うんこを漏らしたことはありますか?」というよくある質問にも平然と「ありません」と答えた。
そして、毎月給料をもらい、ちゃんとトイレを便座に座ってやるようになると(ウォシュレットの存在を知ったのもこのころだ)、うんこの精霊うん子の存在も忘れ去ったーー。
「落ち着いてよく聞いて。これから十数秒後にものすごい勢いで貴方はうんこをもらす」
再会の驚きをふっとばすうん子のことばにわたしはことばを失った。
漏らす?
このわたしが?
今ここで漏らしたらどうなる?
隣の席で互いに性的な視線を送りっているヤリサーのブスどもは持ち前の野生の勘で間違いなくうんこのにおいを嗅ぎつけるだろう。そして瞬時にそのにおいの発生源を特定するだろう。
彼らはわたしをゆびさして嘲笑し、周囲の客たちもわたしに汚物を見るような視線を投げるだろう。
うんこ漏らした汚物のニュースはたちまちその日のトップニュースとしてローカル局に報道され、会社にも伝わり、わたしは面接のときについたウソをとがめられ(「おとなになってうんこを漏らすような人間が、以前にもうんこを漏らした経験がないはずがないよな?」)、おりもののついたナプキンがごとき扱いで会社から、そして地域社会から追放される。借りているマンションも追い出されるだろう。実家からも縁は切られる。
それからは宿無し生活だ。行く先々でこどもたちから「いたぞ! うんこだ! マックでうんこをもらした早打ちマックとはあいつのこと!」とはやしたられ、石を投げられる。
額に投石を受けて、地に倒れ込んでも、わたしは「しょうがないんだ」と自分に言い聞かせなければならない。それだけの罪を犯したのだから……と。
「あきらめないで増田ちゃん!」
「わたしがーーこのうん子がどうにかするわ。あなたにうんこなんて漏らさせない。絶対にあなたを助けてみせる」
ほんとうに? と絶望するわたしは疑念を口にしかけるが、できる、ほんとうに彼女なら可能なのだとおもいなおす。
だがーー。
今は声しか聞こえない彼女だけれど、わたしが「実」をこの場で出せば、その姿を現前させられる。
あの愛らしい、あの懐かしい、
わたしのたったひとりの友だち。
会いたい。
眼から涙が溢れ出していた。
会いたい。会いたい。会いたい。
うん子にもう一度会いたい。
この十年間、十五年だっけ?
ほんとうにいろいろあったんだよ。
あなたに話したいこといっぱいあるんだよ。
話したい、お話したい、
三ヶ月溜めた便秘を吐き出すように私の話を聞かせたい。
とうん子は言う。
だったら、漏らしたってわたしはーー
「でも、ダメ。あなたはおとなになったのよ、増田。うんこを漏らすことをできるのは子どものあいだだけ。おとなはうんこをもらしちゃだめなの。わたしと会っちゃ、ダメなの」
わたしはマックの硬いソファの上で恥も外聞もなく駄々をこねた。いやだいやだいやだ私はうんこを漏らすんだ。
うん子の「ふふっ」という笑い声が虚空のかなたから漏れた。戸惑うような、愛情の篭った吐息だった。
ブリブリブリブリブリイジギュルリルリイリブリッブッブッブッブーブリリリリィ!!!
盛大に漏れる音がした。
この感触。
終わった、と思った。
だが、不思議とヤリサーたちが異臭に気づいたようすはない。わたしにもにおいはわからない。自分の便だからだろうか?
うん子の気配もどこかへ失せていた。
便座に座って下を脱ぎ、解脱した僧侶のような心持ちでパンツを見つめる。買ったときには真っ白だった、清純と純潔の象徴のようなパンツ……。
白いままだった。
夏空に浮かぶ背の高い雲、この前観た『メアリと魔女の花』に描かれていた積乱雲のように晴れやかな白だった。
わたしは漏らしていなかったのだ。
だとしたら、あの確実に三リットルはぶちまけたような大きな排便音はいったいーー?
トイレから出て、席に戻ろうして、店内がやたら騒がしいことに気づいた。
「テメーおまえウンコなんか漏らしやがって」「マジふざけんな」「これからおまえの名前はウンコノミクスだ」
わたしはそのまま席に戻らず、店外へと出た。
雲ひとつない、パンツをはいていないお尻のように清潔な空に、純白の肛門にも似た太陽が燦々と輝き、けがれのない世界をつつんでいた。
にわか雨と局地的大雨・集中豪雨の違い
先の説明の通り積雲や積乱雲は激しい雨をもたらすものの、そうした雨の多くは、散発的で急に降りだしてすぐ止んでしまう一過性の雨(にわか雨)である。例えば、日本の場合は夏に散発的な積乱雲が発生しいわゆる夕立をもたらすが、その多くがにわか雨で、夕立の積乱雲のすべてが集中豪雨を降らせるわけではない。
これは、にわか雨の時には、複数の積乱雲の塊(降水セル)が雑然と集まっていてそれぞれが独立的に活動しているからである。このようなタイプの降水セルをシングルセル(single cell, 単一セル)といい、雷雨の分類上は「気団性雷雨」という。上空が単一の気団に覆われていて、一般風の鉛直方向でのシアーが弱いときに発生しやすい。
降水セルの大きさはふつう、水平方向に5-15km、寿命はおおむね30-60分ほどで、雨はその中でも30分程度しか続かない。そのため、降水セルが雑然と集まっただけでは雨が長続きしない。
しかし、大気が不安定であるなどの要因で積乱雲が発達すると、雨量が増して数十分で数十mm程度に達する。このような雨を気象庁の呼び方では「局地的大雨」という。
そしてさらに条件が整うと、1時間で数十mmの局地的大雨が数時間あるいはそれ以上継続し、総雨量が数百mmに達して気象庁が呼ぶような「集中豪雨」となる。その条件は、寿命が限られた積乱雲が世代交代をして次々と発生・発達し、かつその積乱雲群が連続して同じ地域を通過することである。
空を貫くがごとく吃立した巨大な肉棒が、日の光を受けてビル群の一角に広大な影を投げ込んでいた。
人々は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、悲鳴と怒号がこだまするその様子に冷静の二文字はなく、街は混乱の極みに陥りつつあった。
肩をぶつけ逃げ走る人々の流れに逆らい、肉棒と相対するように空を見上げていた少女が、こぼすようにつぶやく。
その言葉に感応するがごとく、巨大な肉棒がびくりと脈動した。
地が揺れ、空気が揺れ、悲鳴は増幅され、人々はさらに深く混乱へと誘われる。
どこかでビルが倒壊したのだろうか、少女が爆砕音のした方へ視線を向けると、積乱雲のような土煙の塊が膨らみ立ち昇っていた。
視線を肉棒へ戻すと、今にも張り裂けんばかりに怒張した肉棒、その丸く膨らんだ先に、玉のような我慢汁が浮かんでいた。
――まるで、宝石のよう。
少女は、この世の地獄ともいうべき忌まわしき状況において、こんな場違いな想像をした。
天を衝く巨大な肉棒の先にある、宝石のような玉。この非日常的な状況におけるからこそ、少女は混乱の渦中にある美しいものに気がついたのかもしれない。
今この場所この状況において、少女と肉棒は確かに美しかった。
肉棒がひときわ大きく反り立った。
瞬間、肉棒の先から練乳を思い出させる白濁液がほとばしり、太陽を覆い隠した。
まるで津波が襲来したかのようだった。あるいは神話で語られるノアの方舟の洪水か。
ごぷりごぷりと音を立てて街と人々を飲み込んでいく白濁液は、世界の終焉を思わせるほど、絶望的で創造的であった。
その光景を見つめ続けていた少女が最期に見た光景は、追い寄せる白濁液の波の後ろで、先ほどとは打って変わってしなびれた肉棒の姿だった。
視界に真っ白なとばりが落ちて、やがては思考も痛いほどの白さに飲み込まれていく。
普段、そんなそぶりも見せなかったから、気づかなかったのだが、どうもポエムサイトを作って詩を書いているらしい。
サイトを見てみると、古風なHTMLのサイトで、交流用掲示板の書き込み数からみるとどうもそこそこ見られているサイトのようだった。
流行る理由はなんとなくわかった。
椎名林檎とaikoを足して、3か4かで割ったようなポエムがチェリーピンクで書き連ねられていて、素人目にもそこそこ上手な部類の詩が、赤裸々に、多少過激に書かれていたからだ。
問題は内容だった。
最新の更新は土曜の深夜で、彼氏とのデートを書いたポエムだった。
その日は確かに彼女とデートをしたし、なんとなくそのデートを書いているように見えるのだ。
しかもそれが、赤裸々に、過激に書かれるものだから、こちらまで赤面してしまう。
――あなたの小指を狙っていたら、雨降るかな、ってつぶやいた
確かにその日は雨が降りそうで降らない曇りだったような気がする。
そのポエムは彼が恋心に応えてくれないから、いたずらして恋の魔法を掛けてやれみたいなポエムで、え? そんなこと考えてたのかと、どぎまぎするには充分だった。
電話をするときょとんとして、知らなかったっけ? と返される。
ブログのコメント欄にファンらしい人が書き込みをしていて、それでわかったと告げると、恥ずかしそうにへらへらと笑う。どうも、高校生の頃からずっとほそぼそと続けているサイトで、それなりに人が来るから、やめるにやめられないと言う。
「でもさ、これってプライベート筒抜けだよね?」
すこし強く言うと、不機嫌な声が返ってきた。
「これポエムだよ? なんで本気になっているの? そのまま書くわけないじゃん」
「でも、この彼、ぼくのこと書いているよね?」
「だからポエムだって」
まず、ぼくはポエムの基本中の基本を全く知らないとのこと。
たしかに、始めたばかりの頃は自分の周囲の事をそのまま書いてしまうのだけれど、ある程度書けるようになってくると、それでは全然材料が足りなくなってくるので、膨らまして書くようなるのだと言うこと。
それは妄想のたまものであって、事実とは全く異なる内容になるとのこと。
「ポエムは理不尽な現実に対するレジスタンスなの。現実をそのまま書いたら、ポエムになるわけないじゃない」
そこにはこう書かれている。
――積乱雲って、好きじゃない、頭がいたくなるから。
記憶にあったのだ。
「この言葉は言った気がする。こんなようなことを確かに言った」
「それは貰ったんだよ、面白かったから。でも、それだけだよ? だって、これ東京国際フォーラムにいることになっているし」
それを言ったのはコミケの日だった気がする。
彼女は気楽に、台詞の一つや二つぐらいけちけちするなというが、それでも釈然としない。彼女のポエムを眺めていくと、ときおり、背が高くてさわやかな恋人が登場するのを見つける。
「これって、前かなにかに付き合っていた彼氏じゃないの?」
少なくともぼくは背が高くないし、さわやかという感じではないからだ。
「よくわかったね! まあ、ちょっとイメージしたかな、でもちょっとだよ? まさか妬いてるの?」
妬かないはずがない。
その彼との間でも、色恋沙汰のやりとりを赤裸々に過激に書いているのだ。
「すこしは」
「まったくもう……。これだから困るんだよなあ……」
彼女はため息をついた。
彼女は辛抱強く説明をしたのだが、やはり、ぼくがポエムを書いたことがないせいか、彼女がはぐらかしているように感じてしまう。
「だからさぁ、aikoちゃんが、ずっと太一を思って歌ってると思う?」
「太一とは結構前に別れたけど……」
「だから、別れる前にずっと太一への愛を歌っていたと思う? そんな風にいっているのは、そう説明するのが分かりやすいからだよ。実際には誰に向けて歌っていると思う? 観客に対してに決まっているじゃない。聞いてくれる人が共感してくれるように歌っているの。それがポエム。妄想のたまものなの」
ぼくは言い返す。
「じゃあ、なんでむかしの彼のポエムを書いている?」
「だって、そうした方が分かりやすいんだもの。あなた、夏は似合うけど、5月は似合わないし。便利だから使っているだけなの、あのポエムには合うから使っているだけなの。ポエムが先で、それに合う部品として使っているだけなの」
理屈は分かるが釈然としない。
「じゃあ、ぼくはポエムに使うのに便利だから付き合っているの?」
盛大なため息が聞こえてくる。
「いや。でもさ、なんかやっぱり気分悪いんだよなぁ……」
辛抱強くしていた彼女の声が高くなる。
「わたし、純愛ポエマーなんだよ?! わたしが付き合っているのはあなただけなんだから、あなたとのことを一字も書いちゃいけないって言われたら、なにを書けばいいの? ポエムのためにもうひとり付き合えって言うの? あなたのほかに!?」
「いや、そこまでは言っていないけれど」
「ポエムなんて全部妄想なんだから。たしかに実際にあったことを材料にして書くことはあるよ? でもそんなのほんの一部。あとは全部妄想なの」
ぼくは食い下がった。
「でも似ている気がする、ぼくに」
彼女は黙ってなにかを考える。
あっと小さくつぶやいて、言った。
彼女はゆっくりと息をして話し始める。
「えーとねえ。aikoちゃんの詩って読んだことある? 文字で。たぶんとても曖昧に書いてあって、具体的にどんなことがあったのかがぼやけて見えるように書いてあると思う。でも、曲を聴いた人には何となくの情景が浮かぶでしょ? たぶん書いてないことも」
「あ、うーん、たしかに」
「これがポエムの魔法。あなたはこの魔法にかかってしまっているの」
彼女は得意げに息をする。
「あいまいで、それでいて想像力を刺激するように書く。そうすると、それを聴いた人は、そのもやもやとしたものをなんとかして具体的なイメージにしようとするの、わかる?」
「そこまでは」
「そのとき、その聴いた人は自分の記憶で、その足りない部分を補うの。そうすると、そのポエムがまるで自分を歌っているように聞こえてくるってわけ」
しばらく考えるが、ぼくは意味がつかみきれなかった。
「つまり、あなたがわたしのポエムを読んでいるとき、あなたはあなたの記憶でそのポエムを埋めている。だから、わたしが書いているポエムがあなたを書いているように見えてしまうの、わかる?」
釈然としない。
彼女はため息をつく。
「ま、この魔法が使えるようになったら、あなたもポエマーだから。あなた、魔法にかかっちゃってるんだ。わたしの腕も鈍ってないなぁ」
その日はさすがに遅い時刻なので、電話を切った。
彼女はお気楽なのだが、やはりあれだけ赤裸々に書かれてしまうと、どぎまぎとしてしまう。
なんとかならないかなあとと思う日々。
オーストラリア北西部?のある島の上空にのみ存在する巨大積乱雲の話を思い出した。
なんでも、島の大きさや気温などの条件が巨大積乱雲の発生に整っているらしく季節になるとほぼ確実にほかの地域では類を見ないほどの大きさに成長するらしい。
面白い話なので調べてみた。
オーストラリアのTiwi Islandsの上に出る積乱雲「ヘクター(Hector the Convector)」の写真。
http://flickr.com/photo_zoom.gne?id=382463174&size=o
http://images.arm.gov/armimages.nsf/All/6X6N6M?opendocument
http://wolkengalerie.mpch-mainz.mpg.de/Cb_Hector_Serie2/bilder/Cb_hector44_jpg.html
毎年、「世界の煙突」の1つであるこの地域に観測に行くという、雷の研究室。
http://ed-02.ams.eng.osaka-u.ac.jp/ja/prospective_s/work/07.html
http://osakaeng.sub.jp/modules/weblog/details.php?blog_id=104