「御玉杓子」を含む日記 RSS

はてなキーワード: 御玉杓子とは

2015-08-18

蠢蠢

しゅんしゅん【×蠢×蠢】

[ト・タル][文][形動タリ]

1 虫などがうごめくさま。

「―として御玉杓子 (おたまじゃくし) の如く動いて居たものは」〈漱石趣味遺伝

2 おろかで無知なさま。また、そうした人が秩序なく動きまわるさま。

「―たる凡俗の徒輩」〈谷崎・神童

【閲覧は自己責任で】

サラリーマンは小遣いが貴重だ。

子供夏休みに入ると同時に弁当をこさえることをやめてしまう嫁から、その代わりにと500円ばかりの昼食代を援助してもらっている。

学生時代から昼食代を切り詰めては遊興費に回すことは得意だった。

最近では家にある冷凍ご飯を持ち出し、コンビニレトルト惣菜インスタント味噌汁や粉末スープで300円前後に抑えるのがマイブームだ。

会社レンジとポットを使えば、温かいスープ主菜さらサラダまで楽しむことができる。

個別の皿に盛られて出てくるだけで3倍はかかると思うと、最近コンビニランチ産業までをも脅かしているに違いないとよく知りもしない畑の心配をしていた。

以前からコーヒーインスタントで楽しんでいた。缶やペットボトルなんぞは外で飲む以外に買う理由はない。

これらすべてを100円ショップで買ったどんぶりマグカップで楽しんでいる。

ずぼらな私ではあるが、ここで使い捨てを選んでは元も子もない。

ランニングで考えれば洗剤のほうがはるか安価なのは考えるまでもないことだ。

コーヒーの水面を揺蕩う湯気は、自分経済観念を讃えているかのようだった。

そんな私だが、コーヒー砂糖をすくい取るスプーンを入れるカップだけは使い捨てを使っていた。

濡れたスプーンはカビの原因になる。

そのためにすくい取る専用の乾いたスプーンを用意しておいたのだ。

そのスプーンを瓶に刺しておくのも棚に直接おいておくのも憚られたため、汚れたら捨てれば良いとプラスチックのカップを用意したのだ。

もともとがずぼらな私だけに、我ながらいいアイデアであると感心していた。

コーヒースープなどが置かれた棚に並ぶように、一枚のタオルを半分に折りたたんで敷いた上にそれら食器一式は置かれている。

洗ったのちの乾燥もそこで行っていた。

とある雑居ビルの6階に私のオフィスはある。

四六時中パソコンモニターとにらめっこしては、そこに現れる問題点を潰していく仕事だ。

さな害虫を一匹ずつ潰していく作業のようなものだ。

正義感も罪悪感もなく、ただただ単調に害虫発見しては潰していくのだ。

そんなちまちました作業には、自律神経を緊張から開放させてくれる温かいコーヒーが不可欠だった。

さて、午前のノルマを終え優れた経済観念を楽しもうといつものように逆さに向けられたどんぶりを手にした時だった。

何の気なしに、安物と言えども丈夫な作りをしてくれているなぁとどんぶりを覗きこんで見たのだ。

そこで私は、クリーム色の陶器に反射する蛍光灯の光を遮る何かを見つけてしまった。

目を凝らして見ないとわからないほど小さな、それも一つではなく、数個の、どんぶりの色によく似た白い個体が、陶器に足を滑らすでもなく、自由自在に動きまわっていた。

蟲だ。

急いで流しに駆け寄ると勢い良く水で洗い流し、半ばパニック状態になりながらも洗剤も使って念入りに洗い直した。

動くたび鳥肌衣服に触れ、まるで小さな蟲が体中を蠢くようなかゆみに耐えながらふと疑問が頭をよぎった。

「いつからか?」

普段ならどんぶりの中など気にもせず、レトルト食材を袋からどんぶりに移してレンジにかけていた。

ラップに包まれていた温め終えたご飯をどんぶりに加え、さらサラダまで盛りつけて食べていたのだ。

これほどまでに小さな虫なら気づくことは不可能だろう。

加熱処理をしているか問題ないという言葉が一瞬浮かんでは見たが、それがなんの慰めにもならないことに気づいてかえって苛立ちは増して行った。

ビルの6階に何故?どこからたまたまであったと信じたい。

そんなことを考えながら食器の置かれていた場所に戻ると、コーヒースプーンの入ったプラスチックカップが目に飛び込んできた。

そこには、カップの底にわずかながらの、しかし暫くの間放置されたであろうコーヒー豆砂糖カスを見ることができた。

やつらはどこからかこの匂いを嗅ぎつけ、時間をかけてここに仲間を呼び寄せたのだ。

コーヒーはかれこれ半年ほどこうして飲んでいる。食器を買い込んで惣菜弁当を食べ始めたのはここ1ヶ月くらいの話だ。

よもや期せずして昆虫からタンパク源摂取の臨床実験成功させていたとはなんという皮肉

それならばと他の食器もすべて洗い直そうと、敷かれたタオルに手を伸ばした時だった。

その下から蠢蠢と姿を見せたおびただしいまで奴らの前に、自分とはなんと蠢蠢たる瑣末な存在であると思い知らされるのだった。

 
ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん