「もしも、日本が沈没したら」というのを現代の文化、視点を取り入れアニメで描ききった。とくに最終話のビジョンは現代ではないと描けないし、若干未来予想も含まれていただろう。さまざまな制約があった中で、この作品を公開できたことは凄いと思う。制作陣は凄い
地殻変動による火山ガス（硫化水素や二酸化硫黄）の発生と、空気より重い火山ガスが山麓に溜まっているという自然現象の恐ろしさを描いていた。おそらく日本沈没というスケールならこれぐらいの火山ガスが地表に噴出してもおかしくはないと思うし、ああこういう可能性も確かにあるなと勉強になった。ただし、火山ガスが溜まっている場所で刺激臭がしないのかという点に関して疑問点がある。自分は専門家ではないので良く分からないが、刺激臭を感じる間もなく……ということなのだろうか？
いわゆる人種差別の問題。おそらく日本沈没レベルの大災害が起きたとき、命の選別がさまざまな場所で起きるはずで、それをちゃんと描いていたのは良かった。今ってそういうの表現すると問題になりそうなのでカットする選択肢もあったんじゃないかと思う
個人を特定する方法としてマイナンバーカードを使っていること。災害現場でマイナンバーカードはイメージしたことがなかったので、是非はさておき自然に受け入れることができた

Not Good

冒頭、主人公をはじめとする選手たちが被害を受ける前に起きる地震について「沖縄で震度7、東京で震度5」というセリフがあったが、このスケールは視聴者に伝わっただろうか？　これが一つの震源で起きた地震なら、全国の多数の地点で大きな揺れが起きたわけでこれだけでも大被害なわけだが、それが直感的に分かりにくいような気がした。まあ大体の人は気付くのかもしれないが、海外視聴者はどうだろう？　英語版のセリフは「Weak Level 5 in Tokyo」みたいな感じになっていたが、海外では日本の震度表現は使われていない。せめて字幕はマグニチュード表記でもよかったのではないだろうか。あと、「沖縄」と「東京」の地理関係が何の補足もなく伝わっているのかも疑問。いわゆる緊急地震速報の画面のようなもので日本地図を描写していたほうが、スケールを分かりやすく伝えられたのでは（海外はターゲットにしていないのだろうか）
飛行機が川に不時着したあと「津波が来る！」というところでカットというのは不自然がすぎる。不時着していた飛行機はどうなったんだ。沿岸地域は？　コンビナートは？　「壊滅した」といわればそうなんだが、パニック系作品好きとしてはそこを見たかった……
ヘリコプターから人が落ちてくるの、不自然がすぎる。例えば迫りくる火災旋風から人々を救おうと、報道のために出ていた報道ヘリがパイロットの独断で校庭に着陸、多くの人が我先にとヘリコプターに集まりだして一部の人が横に張り付き、降りろ降りないをやっている間に逃げないとやばい状況になってやむを得ず離陸したものの、張り付いた人たちが限界を迎えて落ちていくというのは分からなくもないが、素人がヘリの風圧を完全無視してあの高度まで捕まっていられるのかよく分からない。というかそこは視聴者に想像させず、描いてくれよ！　もしくは、火災旋風が起きて校庭にあった全てが火災旋風に飲み込まれ、黒焦げになった物体が空から落ちてくる方が、恐怖感もあったのではないだろうか。それにしても火災旋風そのものが描かれず、唯一「火災旋風で全滅だ……」のセリフで終わるのは残念だった。火災旋風を絵にするのって難しいのかな

Bad

前述したように地震のスケールの描写が曖昧なのだが、唯一、日本地図に震度が表示されている画面が出てくるシーンがある。けどそこで採用されている日本地図の絵が適当すぎる。これが「こういうテイストの作画なんだ」ということであれば受け入れるが、中国地方と四国地方がつながっている日本地図を「毎日通信」というところが使っているという設定は無理があるのではないだろうか……。しかもタイトルに「日本」と書かれている作品でこのような適当な日本地図が使われてしまうと、海外視聴者に誤った認識をもたせてしまうのではないだろうか。このあたり制作者はどう考えているのだろうか……
前述したように自然災害を描画するのがメインなはずなのに肝心の災害がさらっと流されてせりふでカバーしている点が多い。自然災害ものは多くの人が絶命する状況を目撃するというところが、パニック系作品として面白い／感情移入できるシーンになると思うのだが、そういうのがなかった。というか不発弾とかでてきて「うそだろ」とかこっちが「うそだろ」って思っちゃった。また重要人物の生死にかかわるシーンにいわゆる「感動演出」がある。演出を受け入れるかどうかは個人によるが、多すぎると好まれない傾向にあると思うということは認識しているようで後半は省略されている。例えば高波にさらわれるシーンとかはぱぱって感じ。逆に何もなかったのでギャグアニメかと思った（複数方向からさらわれるシーン出したら絶対ギャグものになっている）。というかこの高波のシーン、その高波以外はまったくもって穏やかなんだがここの前後でどれくらいの時間変化があったのか一切分からなかった……

2020年の価値観や文化をもとに日本沈没というIfを描いている点は斬新であり面白い。だが一方で肝心の自然災害、多くの人々が絶命するような状況がカットされていて、パニック系作品としての魅力は失われている。また英語字幕や音声を用意しながら海外視聴者の理解難度を上げるような表現を繰り広げながら、中盤では海外視聴者に受けそうな宗教要素、銃撃戦、日本刀などの描写を持ち出すなど、ちぐはぐな印象を受けた。またもしこの作品を「常識の範疇を超えた大災害に対し、家族が立ち向かっていく」もしくは「それでも前に進んでいく」というテーマで見るとしても、周囲の無関係な人々が絶命する描写はほとんどなく、ほとんど視聴者の想像任せにされているため、何も考えずに見てしまっていては下記のような点が気になってしまう。アニメの表現力に限界があったといえるのかもしれないが、全体を通じて草なぎ版の日本沈没を見直すか、草なぎ版の日本沈没をリマスターするか、シン・ゴジラを見ればいいなあと思ってしまった。例えば草なぎ版の日本沈没は各地の被害をそれぞれの地域に合わせた見せ方をしていて全国で大災害が起きている感はすごく伝わってきたが、こっちはそういうのなかった（セリフでカバーはされてるけどいやセリフじゃなくて描いたの見たかった！！）