携帯電話の電源を切ってください。マナーモードのバイブ音の振動も、静かな空間では非常に響きます。「スマホの調子が悪いので切りたくない」「バッテリー残量が少ないので切りたくない」「バイブが鳴らないように設定してあるから大丈夫」「機内モードなんだから別にいいだろ」「マナーを押し付けられると切りたくなくなる」「仕事で緊急の連絡が入るかもしれない」などの反論があるかもしれませんが、どうか切ってください。ちなみに私は、あるジャンルの舞台の休憩時間中、隣の席の女性にいきなり「あなた携帯の電源ちゃんと切ってますか？」と詰問されたことがあります。もちろん切っていたので、スマホをみせるとその方は納得していました。もちろんこんなことはめったにないと思いますが、あらゆるトラブルを避けるためにも、どうか携帯電話は切ってください。なにより、携帯電話の音に妨げられることなく上演するのは、俳優やスタッフの願いでもあると思います。「機内モードなんだからいいだろ」「通話しないし、音もならないから別にいいだろ」と、上演中にスマホをいじる行為は、周囲のお客様の大迷惑となります。携帯電話は切ってバッグの奥底にしまいましょう。

前のめりにならないようにしてください。背中を背もたれにべったりとくっつけて、椅子に深く腰掛けてください。前のめりは、後ろの座席のお客様はおろか、斜め後ろのお客様、隣の席のお客様にも大きな迷惑がかかります（ぴんとこない人も、自分が前のめり被害に遭ってみると、視界がどれほど妨げられるかよくわかりますよ）。椅子に深く腰をかけて、背中をくっつけて、ゆったり座って観劇しましょう。じゅうぶん観やすいはずですよ。背中に肉がついているタイプの体型の人も、なんとかがんばってみてください。同じ姿勢をとることにつかれた場合、暗転のタイミングでサっと座りなおしてみてくださいね。

頭を動かしすぎるのも、後方の座席のお客様の目につきます。気を付けてください。

脚の長いお客様、体勢が厳しいかもしれませんが、前の座席をけったりしないように気を付けてください。

上演中の舞台撮影は禁止です。最近は、カーテンコールのみ撮影OKという舞台もありますが、上演中の舞台を撮影しないでください。また、上演前の舞台風景の撮影（緞帳、幕や、舞台美術など）は、劇場によります。禁止されているところもありますので、劇場の指示に従ってください。

コスプレでの観劇については、ローカルルールに従ってください。禁止されているところがほとんどだと思いますが、着物で遊んでみたり好きな登場人物や好きな俳優の演じる役のファッションをちょっとだけ取り入れてみるのは粋だと思います。ロッキーホラーショー観劇時のコスプレは許可されていますので挑戦してみるのもいいと思います。みなさんとてもかわいいし、かっこいいですよ。

愉快な場面で笑うことは、素晴らしいことです。しかし、私語はしないでください。上演中の感想の話し合い、実況中継のような会話、キャーキャーという黄色い声、一切やめてください。感嘆の声や感動からくる溜息がおもわず漏れてしまうことと、私語は、まったく違います。許可がない限り、上演中に立ったり叫んだり騒いだり歌ったり踊ったりしないでください。歌舞伎の大向こうは、素人さんはかかわらない方がいいです。俳優と一緒に歌をくちずさんだりするのも、許可されている場合をのぞき、おやめください。ロッキーホラーショーでは一緒に踊れる場面がありますので、ぜひ挑戦してみてください。

公演中に、役者に手をふるのはやめてください。

「○○くん大好き」だの「○○さん愛してる」だの書いたうちわやボードは、観劇中に掲げないでください。こういったことは、コンサートなどで楽しんでください。観劇中にこんなことをする必要は一切ありません。

咳やくしゃみなどに注意してください。日頃クセになっている咳払いが、観劇の場となると迷惑になることがあります。雄叫びのようなくしゃみ、咆哮のような咳や咳払いはやめてください。しかし体調はひとそれぞれ。どうしても痰がからんだり咳が心配になる場合は、タオルハンカチを手元に準備し、あらかじめ開封ずみの飴（くれぐれもニオイに注意）をそこにしのばせ、ノドに危機が訪れそうになった瞬間、口にこっそり放り込むという手段もあります。本能のおもむくまま咳をされるより、こちらのほうがよっぽどマシです。寒ければ、たいていの劇場ではブランケットを借りることもできますよ。どうしても咳やくしゃみが出てしまいそうなときは、口元にハンカチをあててやりましょう。

とはいえ、上演中の飲食は基本的に禁止です。映画鑑賞とは、この点が違いますね。飲酒などもってのほか！（まれに、老人客がお酒を飲んでます・・・）ただし、上記のように、ノドのコンディションなどの理由で飴や飲み物を摂取したくなるときもあるでしょう。その際、「カバンのファスナーの開閉音」や「飴の包み紙の開封音」というものは、とてつもなく迷惑となるのです。体調不良により飲料や飴（薬は休憩時間や上演前に飲みましょう）が必要な方は、この対策は必ずとってください。

休憩時間の飲食ですが、「座席での飲食OK」という劇場と「座席での飲食ダメ。ロビーで食べて」という劇場、2パターンあります。劇場のルールに従ってください。

購入した飲食物や、購入したグッズをいれているナイロン袋。ナイロン袋がこすれてガサガサと鳴る音は、周囲のお客様への迷惑となります。観劇中は椅子の下に置きましょう。または、バッグの中にナイロン袋ごと仕舞ってしまいましょう。

座席の肘掛を使うときは、隣の席のお客様のからだに肘がふれないようにしましょう。また、足の長いお客様は、となりの席に足をはみ出させないように心がけましょう。隣の席のお客様のスペースに、からだをわりこませないように気を付けてください。

遅刻はしないように気を付けましょう。そうはいっても、日本の演劇の上演時間は、平日仕事帰りに観に行く人にとっては厳しいスケジュールですね。どうしても遅刻してしまう場合は、劇場に入ったら即携帯の電源オフ。ガサガサうるさい音をたてそうな荷物も、バッグのなかに一気に片づけた後、劇場係員の先導のもと、姿勢を低くして、すみやかに座席へむかいましょう。ちなみに、地方の市民会館で上演された舞台を観劇した時、慣れない学生バイトとおぼしき劇場係員が遅刻してきた客と一緒にさんざん迷ったあげく携帯電話のライトで座席番号を照らしそれでも座席が見つけられず右往左往を続けていたという、困った光景を見たことがあります。原則、遅刻はやめましょう。

無駄に髪の毛をさわってみたり体をかきむしってみたり指を鳴らしてみたりびんぼうゆすりをしてみたり足をぶらぶらさせてみたり下手にリズムをとってみたりピアノ演奏のマネをしてみたり、あまりにオーバーなリアクションをとってみたり、ひとりごとを言ったり、けたたましい笑い声をあげすぎたり。不審な挙動は、両隣のお客様に丸見えです。意味のない行動はやめて、手は膝の上に置き、観劇に全力を注ぎましょう。手拍子は、場面に応じてOKです。

帽子は絶対に脱いでください。女性は、頭頂部お団子頭はやめてください。やたら面積の大きいヘアスタイルも、後ろの座席のお客様の迷惑になることがあります。

オペラグラスを使うときは、わきをしっかりしめて構えてください。肘が隣の席にはみ出さないように注意しましょう。

いびきをかいて眠りこんだり、こっくりこっくり船を漕ぐのも、周囲のお客様の迷惑となります。眠いなら家に帰りましょう。

感動して涙を流すことは素晴らしいことです。しかし鼻汁の音をブーブーピーピー鳴らしまくる音や、場面が変わったのにいつまでもｽﾝｽﾝしゃくりあげる声音は、意外に目立つものです。気を付けましょう。

持ち物に鈴などはついていませんか？鈴の音は、静かな空間に響きます。持ち物チェックも大事です。

体臭に気を付けましょう。きつすぎる香水や、生乾きの衣類臭、汗の臭いなど、周囲のお客様に迷惑をかけないようにしましょう。上演前に、デオドラントエッセンス（噴射スプレーではなく、細いボトルのミストタイプのもの）を、胸元や首元にほんのわずか吹きかけるだけで、体臭対策ができますよ。

観劇時の服装ですが、さほど厳しいドレスコードはありません。周囲のお客様の迷惑にならないようにおしゃれを楽しんでください。わざわざ着物で行こうと考える人は、ここで指南を読む必要もないのでは？周囲の席のお客様のさまたげにならないようにお願いします。浴衣はやめたほうがいいかも。

劇場の通路や座席は狭いものです。ゆずりあって通行し、あいさつやお礼を気持ちよくかわしましょう。中央部の席から通路に出入りするときは、「ありがとうございます」「失礼します」と伝えながら通行すると、お互い気持ちのいい観劇ができますよ。

出待ち入り待ちは、各ジャンルのルール、各劇場のルールに従ってください。禁止されているなら、出待ちも入り待ちもしないでください。

お手洗いは休憩時間、上演前にすませましょう。どうしても波がおとずれたら、すみやかに退出しましょう。

バッグや持ち物は座席の下かひざの上におきましょう。バッグハンガーを前の座席にかけ荷物を吊るすようなことはおやめください。大荷物の場合は、コインロッカーやクロークを活用してくださいね。

空腹には注意。事前にお腹を満たしてから観劇しましょう。観劇には体力も必要ですからね。静かな劇場空間で、お腹がグーっとなる音は、迷惑とまではいきませんが、お隣のお客様にもはっきり聞こえています。

上階席で観劇する場合、見えにくいこともあるかもしれません。しかし、立ち上がって観劇するのはやめましょう。身を乗り出しすぎるのはやめましょう。一階の前方列で観ている客には観えないものが、二階や三階から見つけられるはずです。あなたにしか観えないものがたくさんあります。それを楽しんでください。

カーテンコールなどは、各ジャンルや各劇場のルールに従ってください。やらないジャンルもありますから。

物語のオチを大声で話したり、出演している俳優の悪口を大声で叫んだり、俳優の根拠のない噂話でもりあがったり。座席での会話は周囲につつぬけです。気を付けてください。

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2015-09-12

■２０１２年冬ニューヨークにて

2012年１２月、私は２１歳だった。私は失恋して、一人でクリスマス休暇中にニューヨークに来た。ギザギザした気持ちで、寒い街をくまなく歩く。人はきっとこれを傷心旅行と呼ぶんだろうな、と思った。

バラク・オバマ大統領が再選が確定して、世の中はひと段落し、クリスマス休暇で街中がウキウキしていたのをよく覚えている。

ニューヨークはその年暖冬だった。街に雪は降っておらず、大学のトレーナーと、ＺＡＲＡのダッフルコート、リーバイスのジーパンを履いて街をうろうろしていた。それで十分な寒さで、ニューヨーカーに良い時に来たね、と言われた。

ニューヨーカーはみんな洗練して見えた。少し、日本に似ている。少なくとも私が長くいたカルフォルニアよりずっと。太っている人が少ない気がする、とタクシーの運転手と話した。みんな歩くからね、と彼は話す。ニューヨークは交通の便が良いようで悪いから。

ＭｏＭＡにムンクの絵が来ていた。それから、グッゲンハイム美術館にはビカソ。芸術の面では世界で一番恵まれた街の一つだろう。美術館には少しドレスアップして行かないといけないのに、私はトレーナーできて少しばつの悪い思いをした。ダッフルコートがあったら、少しましだっただろうに、クロークに預けてしまった。ＭｏＭＡのゴッホの絵は、荒々しい筆致でところどころに筆の毛が油絵の波の中にまじっていた。本でしか見たことのない絵に私は興奮したけれど、元恋人と一緒に見た気のする絵だったので寂しくなる。横にいるはずの人の不在が私を虚しくした。

本当は、彼と一緒に来るはずだった。私はその気持ちを振りきってにピカソの白黒の絵の前を通り過ぎる。グッゲンハイム美術館は、らせん状の作りになっていて、ピカソのデッサンや下書きばかり仰々しく飾ってあって私は不満に思った。

夜は一人でホットドッグを食べた。一人旅なのだから、無理してお洒落な店に入る必要もないし、お腹を少し満たせるならそれで良かった。一緒にいる人がいないと、人は自分を粗末にする。夜のニューヨークは一際しんと、寒かった。眠らない街と言うけれど、意外と夜は静かだった。

翌日も、前日と同じくらいの気温だった。メトロポリタンミュージアムの前で、イタリア系の画家と少し話した。絵を書いてるんだ、僕のアトリエに来ないかい。私は頷いた。マンハッタンを出て、クイーンズに行く。私の英語が訛っているのをからかわれた。あまり綺麗な英語を使えている自信はない。アトリエは沢山の絵があった。マチスに影響を受けていると彼は話す。家と隣接していて、君の絵を書きたいなと言われたけど私はかぶりを振る。あまり長く、ニューヨークにはいない。彼はそれでも私を椅子に座らせて、素早くスケッチをした。彼のノートの上に寂しそうな顔をした私の顔がのっている。似てる、と笑ったら、君を描いたからね、と真剣に答えられて辟易した。

彼の家でお菓子をごちそうになる。甘いチョコレートケーキだった。赤いソファに腰かけた。ピカソの絵の赤いソファは、安らぎを意味する、という話をした。ふと、彼が急に怒りだした。君は今、君の元彼氏のことを考えているんだろう。私は、違うと言おうとしたけれど、止めた。

赤ワインを飲んで、私は彼と別れた。駅まで送ってもらった。また来てね、と言われて私は手を振る。携帯番号を教えたけれど、多分きっと、彼にもう会うことはない。

マンハッタンのホテルに戻って、倒れこむように寝た。思ったより疲れていた。

翌日はふらふらとミュージカルを見に行った。タイムズスクェアは騒々しく、買えたチケットはミュージカル版スパイダーマンだった。一人で見る、とチケットブースのおばさんに行ったら、一人なら良い席があると言われて、格安でその席のチケットを買うことができた。開幕まで時間があったので、トイザラスの２階のガラス窓に寄りかかってタイムズスクェアを眺めていた。クリスマスが近いからか、トイザラスは人でごった返していた。