はてなキーワード: くにっことは
これは小さい頃、確か小1の時の話だ。
ある日、学校で「挨拶は大事、友達や近所の人にも挨拶をきちんとしましょう」ということを先生が教えてくれた。大人となった今ではもうひねくれてしまったが、まだこの頃は些か真面目だったので、バカ正直に実行した。
具体的に言うと、家の近くを歩いてる人=近所の人と判定し、通学路で見かける人は知らない人でも片っ端から挨拶をしていた。もはやただのバカである。それか不審者。
しかし、子供のやることだからか、大抵の人は不審者扱いせず、軽い会釈を返してくれた。
ある日のことだ。帰り道、家の近くを歩いていたこれまた知らない男性に、自分はこんにちは、と挨拶をした。
すると、その人は珍しくにっこりと笑って返してくれた。優しい人だと感じる。他の人ならそれで終わりなのだが、その日は違った。その人はこちらへ手招きをしたのだ。
自分はよく分からないまま、その人へ近づく。すると、その人は「目を瞑って」と言う。
自分は何も疑わず従ってしまう。すると、彼は手を取って歩き始めた。家の近くなのもあってか、自分はそんなに不安に思うこともなくついていっていた。
30秒くらい経った頃だろうか。すぐに男の足は止まり、手が離された。目を開けてごらんと彼は言う。
そこは、住宅街の路地。なぜか広いスペースがあって、祠のようなものがあるところだ。
家の近くで遊んでいる時、たまに立ち寄っては何だろう?と思っていた。
その祠の中には、よくみると狐の像が入っていた。
男は、このままついてきて、と再度手を差し出す。男の笑顔はとても優しいままだった。
けれど、たったひとつ、差し出した彼の手の爪だけが先程と比べ鋭く、不気味なほどに伸びていた。まるで獣の爪のように。
幸いなことに、その祠の場所は自分の家から1分程度の場所であった。全力で走り、家のドアは駆け込む。
いつものようにすぐに洗面所で手洗いうがいをする。その不気味な爪のことは気になったが、小さい頃の自分は夢だ!夢でも見たんだ!と鏡に映る自分へ言い聞かせた。そして、すっかりいつもどおりの生活に戻っていったのだった。
YouTubeで百物語を語るという配信を見たから書いてみたのだが、怖い話というのは、なかなか難しい。お化けなどを登場させると、途端に創作と分かってしまい、しらけてしまう。なーんだ、作り話かと。勿論これも、作り話だ。
とはいえ、物語には実話を基に、脚色している話も多い。因みに、この話も一部は本当に自分の体験談だ。これは私に書ける精一杯だ。
そしてもうひとつ、洗面所で夢だ!と言い聞かせた所も恐らく、本当だ。
恐らくと言うのは理由がある。あの時、夢であると思い込もうとしてしまったために、20年以上経った今では自分でも、本当に現実か妄想か分からなくなってしまった。
その時親には何となく話せなかったし、友達にも勿論だ。だから、誰かに証明してもらうことも出来ない。
漫画の登場人物にこういうことはあまりありえない。読者という絶対の俯瞰、神の視点があるからだ。漫画の登場人物が同じようなことで悩んでも、読者だけは答えが分かる。まあ読者でも訳が分からないなんて例会もあるが。
しかし現実に神の視点はない。lemonの歌詞で言えば、誰にも分からないから、いつまでもこれは自分の中で昏い記憶となるのだろう。