もう何日も食べていなくてやせ細った人がいたとする。その人が発する言葉は「腹が減るなぁ」だろうか、それとも「腹が減っているなぁ」だろうか
十中八九そのどちらでもなく、「腹が減ったなぁ」、もっと言えば「腹減ったなぁ」と言うのではないだろうか
ではなぜ人はめちゃくちゃ腹が減った時に「腹が減るなぁ」でも「腹が減っているなぁ」でもなく「腹(が)減ったなぁ」と言うのか
言い換えるなら、なぜ現在形でも現在進行形でもなく、過去形を選択するのか
その一因は「時間」にある。
これらの表現はどれも「今腹が減っている」という同じ意味を表すが、現在進行形と過去形が時間を強調する一方で、現在形は時間に対する意識が乏しい
つまり、現在進行形は「今まさに腹が減っている」ことを強調し、過去形は「過去に腹が減ってしまった(そして今も減り続けている)」ということを強調する(英語でいうところの現在完了の結果用法)
その一方で現在形だけは時間を意識せず、単に「腹が減るという状態」であることを漠然と示しているに過ぎない
要するに、「いつ」という時間的側面を強調するがゆえに、現在進行形と過去形はより臨場感や切迫感を感じられる表現だと言える
それなら、今まさに腹が減っているのだから現在進行系のほうがこの場面には相応しいのでは?と思った人もいるかもしれない
確かにそれはある意味正しい。実際、怪我をして出血した際には、過去形の「血が出た!」よりも切迫感を感じられる「血が出てる!」を使う人が多いだろう
しかし出血と比べれば空腹は緊急性が低く、日常的に起こりうるものであり、何時間も、あるいは何日も継続することも場合によっては珍しくはない
だから、「今まさに腹が減っている!」という切迫感よりも、「腹が減ってしまった・・・嫌だなぁ」という不快感に由来する落差に注目が行く
「腹(が)減ったなぁ」という過去形は、まさにこの「腹が減っていない状態から減った状態になってしまった」という心理的な落差を強調するのに適しているのである
だからこそ、めちゃくちゃ腹が減った時には「腹が減るなぁ」でも「腹が減っているなぁ」でもなく、「腹(が)減ったなぁ」と言うのだ
A「Bさん、夜中腹減んないすか?」 B「腹減ったなぁ」 これは?
それはただのMUR
東洋経済みたいなタイトル