2022-11-29

真のロックンローラー

彼女は近所のライフから買ってきたヒエヒエのお弁当をそのまま食べ始めた。

弁当は温めた方が美味しいに決まってる。冷めた脂は体に悪い。気味が悪いとすら思ったのでレンジ場所を教えてやった。

しか彼女が言うには

「お漬物が温まっちゃう

この一言は後に、俺のロックンロール観をお漬物とそれを包括する弁当に輪ゴムのように縛り付けることとなる。

その当時の俺は何かこみ上げるようなものを感じながらも、お漬物好きなんだねと言うに留まった。

それから色々な日々を送った。酒を飲み荒び、童貞ながら性病になり、金玉が象の皮膚のようになり、革ジャンを羽織り、夏に脱ぎ捨てたり、講義をサボったり就職したりしながら、体と心は虚無義務生活爺に近づいていった。

ふと思う。革ジャン着てればロックンローラーか?何も思うところなくそれをあっけらかんと開き直るのがロック

なあ、そんなのよりたった数グラムぬか漬けにされたキュウリのために弁当全体を台無しにできちまう、破滅的な漬物愛こそがロックンロールじゃないのかい

はいまだに近所のライブハウスで未練がましくアマチュアバンドを観たりする。米兵英語が上手い。米兵から。オシャレなバンドモテる下北を想起させるから。でもお前ら、冷めたピザを食えるか?氷水にジャブジャブしたピザにお漬物載っけて

「お漬物温まっちゃうから

って言えんのかよ。

俺は生涯、一人のロックンローラーしか合わないだろう。やたら薄いビッグカツ弁当レンジに入れて、ダイヤルを2分のところに合わせながら思う。

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