2022-07-08

素人から食えるライターへと育てることをあきらめた

自分のまわりのスラングに、「仕事をおごる」というものがある。

腕は悪いが人柄がいいライターに大きい仕事を回し、リライトしたり、間に合いそうにない部分をもってあげたりしてなんとか形にして、ギャラは満額わたす。

ひどいと7割くらい編集が書いている。

当然企画取材も噛んでいるので、最初から自分だけでやった方が圧倒的に効率がいいが、それでは一生こなせる仕事量が増えないし、自分が頼めるライターも増えない。

なので根気よく育て、頼れる存在を自前で育てる。

から仕事をおごるのは今も昔も当然、という風潮。

ひと昔前のライター雑誌編プロで鍛え上げられていたが、今はそういう環境がない。驚くほど人材が育たない。

特にwebデビューした個人ライターの質の低下が止まらず、ちょっとの下調べも文章推敲もできない。

一般常識がなさすぎて取材の申し込みひとつ頼めない。

本当に卒論を書いたことがあるんだろうか、というレベルで、ごく普通文章が書けない。

とはいえ、そういう人間を片っ端から切っていてはもはや本が作れないし、人材も育たない。

人を育てる、というのは、要するに「その仕事で食えるところまで面倒を見る」のが業界の慣習なので、

編集は若手ライター仕事をおごりまくる。

どうにか一人前になったかな、というところで、

彼らの営業先を増やすため、別のクライアントを紹介する。

こういう人脈作りは必ずいつか自分にも恩恵がある。

ところが、そうやって独り立ちしかけていた若手が、

ここ数年で次々とライター廃業してしまった。

まったく食えない、と。

紹介したクライアントに聞くと、仕事が遅く、キャパがないのでまとまった額になっていない、とのこと。

16ページそこらのノベルティ小冊子程度を2ヶ月かけて作っていたという。

情けなくて涙が出そうになった。

その倍の量を毎月こなせるようになったと思っていたのに、まったく独り立ちできていなかった。

自分の育て方が悪かったのもあるだろうし、

おごりすぎて彼らの仕事感覚が現状にあっていなかったかもしれない。

ただただつらい。

それでもモチベがあるライターにはなるべく仕事をふっているが、

若手時代からほとんど成長していない。

申し訳ないが、いつまでも仕事をおごっていてはこちらの身が持たない。

もう雑誌は消えていく一方の存在だ。

この先、人材が育つことはほとんどないだろう。

最初から戦力を計算できる、野生の一流ライターを発掘するか、すでに実績十分のライターに依頼するのが当然。

やる気があるド素人プロライターに育てるのが時代錯誤なんだろうな、とさみしく思う。

老害まるだしの回顧で恥ずかしいが、

昔はそんな二流三流の人材でも、

泣いたり笑ったりしながら何日も編集部に泊まり込んで一緒に仕事をして、

仕事がハネたら朝まで酒を飲んで、みんななんとかいっぱしの書き手になっていた。

そうして自分のもとから骨のある文筆家が出ていくのが本当に嬉しかった。

たぶん、もうウチのスタッフがそういう経験をすることはないだろう。

みゆく船だとわかっていながら、自分はこの業界に何の爪痕ものこせなかった。

そんな自分9月から取締役になる。

経営側に回り、完全に現場を離れる。

自分が見捨ててしまった、廃業していったライターたちは、どんな気持ちでこのニュースを聞くだろう。

平凡で無策な編集長だった自分が、

すでに傾きつつある自社を立て直せる自信はまったくない。

売上はそれなりには立つだろう。

大金を積んで実績のあるライターに依頼し、クライアントの意のままに体裁だけを整えた誌面で。

ライターデザイナーを育て、また自分も育てられた、成長の実感に満ちた本作りは、

気がついたら過去のものになってしまった。

自分はその最前線にいたはずなのに。ひたすら悔いが残る。

こんな泣き言は社内では口にできないので、

ここに書き捨てながら、老いた顔でボロボロと涙を流している。

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