2022-07-01

オオアリクイ

恋人の暮らす国が戦争を始めて5ヶ月くらいになった。恋人といってもネット越しでしか会ったことがない。初めて会ったのはたった一年半ほど前。数回言葉を交わしただけで私は彼に最大限に惚れ込んで今もそのまま。彼もすぐに私を気に入ったようだけど恋人認識されたのは最近のことだ。龍が如くファンなのにあれに実在の店が出ていると知らなかったり、シェイクスピアのころの英語チャットで実演してくれたりするかわいらしい人。彼に会ったことで私の人生が報われたと思う。

もともと私は恋人日本に連れてきて一緒に暮らすためせっせと送金していたけれど、戦争が始まって恋人収入が途切れたのとPayPalが使えなくなり手数料の高い代替サービスを使い始めたのとあちらの物価が上がったのとで更に多く送らなければならなくなった。特に恋人家族を養ってるので薬代の暴騰が痛い。それでもまだ在庫があるだけマシか。「●●ちゃん暮らしは今私の可愛い肩に掛かってるんだよ」と言ったら本当に可愛くて綺麗な肩だとすごいほめてくれた。うれしい。

恋人友達は開戦前後にほぼ国外脱出したらしい。パスポートを持っていたり、国外会社に招かれたりしたそうだ(ここらへんの仕組みはあまりよくわからない)。ネットがあるのが奇跡みたいなシベリアの小さな村で暮らしていて高等教育も受けていない恋人にはどちらもないので、私と結婚するほかに逃れる道はなさそうだ。

しか日本国際結婚は数年前に条件がすごく厳しくなったらしく審査に通る気がしない。ああ、数年前に知り合っていればなあ……

それどころか恋人が国を出られるかどうかも怪しい。「もし出てこられないなら、代わりに私がそっちに行こうか」と提案したら養えないからと却下された。「そんなのはわかってるよ、だから一度抱きしめてそれから自殺するつもり」と言ったらこれも却下された。

仮に呼べたとしたら多分持ち家が必要になる。借家だと入居時に面倒なことになりそうだ。暖かいところがいいなあ、冬でも雪じゃなくて雨が降るところが。恋人はきっと雪はもう見たくもないだろうし、それほどでなくとも別に見たくはないだろう。シベリアの冬がモスクワあたりよりずっと寒いことは知らなかった。同じぐらいだと思ってた。夏が日本より早く来て6月中旬に30°を越すことも知らなかった。シベリアに送られた人たちに罪がないとすれば、シベリアに生まれ恋人前世で罪を犯したんだろう。

私の父さんと母さんには黙ってた方がいいかな? 子供売国奴になったと知ったら悲しむかもしれないし。でも国際結婚親族が認めてるとやりやすいらしいから悩みどころ。

それかどこか第三国に行くか? どこがあるだろう。トルコか、カザフか、最近彼の国の人をビザなしで受け入れ始めたという韓国か。どれにしても手続きは困難そうだ。友達ロシア語英語と少しのドイツ語ができるが私は日本しかできないのも難易度を上げてくる。

ともかく今怖いのは国境閉鎖とネット遮断予備役徴兵。これをやられると生きてるうちに恋人と連絡が取れる可能性がほぼ0になる。3/6から予備役徴兵が始まるという噂を恋人に聞いたときは目の前が真っ暗になった(結局ガセだった)。

会いたい。それで抱き合って、一緒に暮らしたい。

でもそれができなかったとしても死ねばいいのが救いだ。私は恋人に「私の死をはっきり確認するまで諦めてはならない」とロミオとジュリエットを引いて説得したくせに、自分恋人との連絡が途切れたらその時点で諦めて死んでもいいやと思っている。たとえ愛し合っていても思いは対称じゃない。

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