2022-06-27

葬儀の夢

葬儀に参列した。

式次第が進んだ後、親族一同で少し離れた料亭食事を取ることになった。

手配された車で移動しようとしたら車が足りず、一旦自分が一人で残ることになった。

しばらく待っても迎えが来ない。

料亭場所もきいてなかったので、近くの飯屋で適当食事することにした。

喪服で店に行くのも嫌がられそうなので着替えていたら、携帯電話がかかってきた。

見慣れた番号だが誰だっけ。

「ああ俺。夢から覚めた後の俺。いま飯を食いに行っても無駄から止めておけ。

夢だから。」

そういえば自分の番号だ。

「夢なのかこれ。なら昔気に入ってたのに閉店した

あのラーメン屋にも行けるんだな。」

意味ないって。それよりお前は睡眠が足りてないんだよ。

今午前2時だぞ。こんな時間にこんなはっきりとした夢見てたら駄目だ。

もっと深く眠れ。」

「今寝てるのは俺じゃないし、俺に言ってもしょうがない。

ところでこれ誰の葬儀だ?」

「知るか。誰だっていいだろう。」

「両親の祖父母は4人共何年も前に全滅した。母親も去年癌で死んだ。

残っている親父か?」

蓋が閉じた棺桶を脇目に見る。

「そんな事は考えるな。とにかく今すぐ全部やめろ。

寝ろ。」

切られた。

寝ろと言われてもすでに寝ているし飯を食いに行っても無駄だ、となると

自分のやることは棺桶の中身を確かめることじゃないのか?

棺桶に寄ろうとしたら、斎場の小さな隙間から猫が入り込んできた。

ガリガリに痩せた汚い猫で、放っておいたら猫に遺体を食べられてしまいそうだ。

猫を捕まえて外に追い出したが、この猫、何度捕まえてもどこからか中に入り込んでしまう。

着替途中の中途半端な格好で猫と追いかけっこしてたら、

また同じ番号から電話がかかってきた。

「俺は今この文章を書いている俺だ。起きてしばらくしてからこの文章を書いているが、

実際のところを伝えておく。

さっきの"夢から覚めた俺”は夢の中のお前が作ったキャラクターだ。」

また変なのが出てきた。

「さっきの奴とは違うのか。

なんだよ、実際のところって。」

「実際に見た夢と、この文章は内容が大部違ってる。

まずお前は棺桶の中身が誰か、誰の葬儀か一度も気にしなかった。

さっきの奴との会話はあったが、棺桶の中身については一切触れなかった。

そして猫にも入り込まれたが、実際の夢では

何回も入り込まれた腹いせにお前が猫に噛みついて、

猫は死んだ。」

何だそれ。そういや腹は減ってるが。

脇に抱えた猫が不安げに俺を見上げる。

「そりゃ面白いな。猫はともかく。

要するに"今この文章を書いているお前"は、

棺桶の中身が誰なのか、後から気になったんだな。」

別に気にならない。夢で誰が死んでようが、夢は夢だ。

何の意味もない。フロイトユングもただの占い師だ。」

「なら聞いてやるよ。

親父が死んだらどう思う?」

特に何も思わない。恨みも感謝殆どない。

母親が死んだときと同様事務的葬儀を済ませて、

人並みに悲しんだふりをした後日常に戻るだろう。」

「それを言いたくてわざわざこの文章を書いたのか。

じゃあお前の仕事は終わりだな。」

猫を床におろしてやった。

猫はてくてくと棺桶に近づいていく。

「それでいい。そのまま猫に遺体を食わせて終わらせよう。

お前は夢でやっていたように、存在しない親族姉妹

甘いものでも食べに行けばいい。」

猫は棺桶の前で止まりこちらをじっと見ている。

誰がいない猫に後始末などさせるものか。

俺は奴に言った。

「猫がどうするかは、今ここにいる猫が自分で決める。

お前じゃない。

俺もそうだ。

夢の中の俺でもなく、この文章を書いているお前でもなく、

今ここに立っている俺こそが自分だ。

棺桶をどうするかは俺が決める。

じゃあな。」

電話を切った。

棺桶に近づき、猫が見守る前で蓋に手をかけた。

さて、何が入ってるか。

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