2022-06-16

きのこマニアが「なめこ」の起源について解説するよ

やあ(´・ω・`)

きのこ増田だよ。

日頃ホッテントリ入りしたきのこ関連の記事を、気まぐれで解説しているよ。

なめこ」の起源 “60年前に福島県採取の野生の菌に由来”

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220615/k10013672561000.html

今回はみんな大好き「なめこ」の起源について解説するよ。

起源の誤解を解くよ

ブコメで散々指摘されているとおり、あくま日本栽培されているなめこの99%は、

引用:60年前に福島県喜多方市採取された野生のなめこの菌に由来する

ってことだよ。無論、日本中でごく普通にみられる野生のナメコ起源が全て福島県産というわけではないよ。記事にもしっかり

引用野生の菌では遺伝的な多様性がみられた一方、菌床栽培の菌は1つの系統に分類され、それぞれが遺伝的に極めて近い関係だと明らかになった

と書いてあるよ。まあ、見出し誤読を誘っている感は否定できないけど。

じゃあ結局野生のナメコ起源はどこなの?って疑問が当然生まれると思う。

結論から言うと、実はよくわかっていないんだ。というのもナメコに限らず、菌類全般ほぼ化石に残らないので、どの種類がどの時代に分かれたのかって細かいとこまで、今のところ把握のしょうが無いというのが実情なんだ。

ソースとなる論文を読むよ

ニュースソースとなった論文の冒頭から引用するよ。

どんな自然科学記事にも言えることだけど、せっかく論文が公開されているのにソースリンクがないのは不親切だよね。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mycosci/63/3/63_MYC570/_html/-char/en

DeepLの力を借りるよ

なめこは、特に日本で人気の高い食用きのこの一つである。本種は白色腐朽菌の一種で、ヒマラヤ中国から日本までの東アジアの冷温帯落葉樹林の枯木や朽木に生育する。記録によると、ナメコ1921年東北地方で初めて人工的に原木栽培され、伝統的にこのきのこを食してきたという。近代的なナメコのおがくず栽培は、食用きのこのおがくず栽培パイオニアである森本彦三郎によって1930年確立された。その後、1960年代から1970年代にかけて木製トレー栽培が開発され、日本における選抜菌株の商業生産が拡大した。1980年代以降は、空調を伴うオガクズ栽培で通年生産可能となり、日本での生産量の99.7%を占める主流となった。その後、1970年代半ばに中国遼寧省南部ナメコ栽培が導入された。それ以来、中国はその最大の生産国となった。最終的に、2012年には中国が70万トン以上、日本が2万トン以上のなめこ生産し、現在アジア各地、北米ヨーロッパへの栽培の広がりを引き起こしている。

もともと日本しか栽培されてこなかったのに、今となってはほとんどが中国産なんだね。

そのため、食用きのこ栽培歴史は、作物植物家畜に比べて比較的浅いことが報告されている。例えば、最も古くから栽培されているきのこの一つである椎茸栽培は、約800年前に中国で行われたようであるしかし、ナメコ栽培は約100年前から行われている。1929年山形県採取された野生子実体から初めてナメコ家畜化株が分離されたが、戦後の混乱期に消失したとする説が唱えられている。ナメコ家畜過程に関する記録はほとんどない。しかし、現在オガクズ栽培に用いられている株は、1962年10月16日福島県山都町市で採集された単一の野生株F27に由来すると考えられる。したがって、市販ナメコの大部分はこの厳しいボトルネック現象に由来すると推定され、その結果、遺伝変異が非常に少なくなっている。栽培種と野生系統遺伝多様性比較は行われていない。したがって、家畜化された種の遺伝資源を利用し、さら品種改良を進めるためには、その進化史を正しく理解することが必要である。そのためには、家畜自然集団遺伝多様性集団構造に関する知識必要である

断片的な資料口伝などでF27という株が起源ということは推測されていたものの、きちんと裏付けがなかったみたい。今後品種改良を進めて継続利用していくためには、そもそも今出回っている株がどこに由来しているのか、また多様性はどうなっているのかを調べることが大切なんだね。

研究により、日本産オガクズ栽培株は自家繁殖または家族内交配に由来していることが示された。これらの結果は、日本のオガクズ栽培生産される商業ナメコ単一祖先の子であるとする単一祖先仮説と一致する。したがって、日本商業ナメコ単一家畜事象に由来するため、遺伝多様性が著しく低いと結論づけられる。

日本全国から収集されたナメコ野生株の中程度の遺伝多様性レベルは、他の木材腐朽菌の野生株と同等かそれ以下であると報告されてきた。また、他のきのこ栽培はいずれも複数家畜起源を持つことが研究で示されており、ナメコ自然集団は、おがくず栽培有効な菌株を開発するための新たな遺伝資源となり得ることを提案する。

中国におけるナメコ生産は、日本からの始祖株F27の子孫が一部寄与しているものの、少なくとも一部の中国品種は異なる家畜過程を経たことが示唆された。日本以外での栽培履歴を明らかにするためには、中国における栽培ナメコの全体的な遺伝多様性に関するさらなる調査必要である

他の栽培きのこには複数起源があるのに、菌床栽培なめこ単一から遺伝多様性が極めて低いという評価なんだ。栽培の持続可能性や新たな品種を生み出すためには、野生株や世界中栽培されている株の追加調査必要なんだね。

なめこ栽培歴史

現在国産なめこ種菌を牛耳っている種菌メーカー大手キノックス」のサイトに詳しいよ。

http://www.kinokkusu.co.jp/etc/09zatugaku/hakase/ha-nameko_04.html

品種改良以前に、そもそも種菌の性能維持にもすごく神経を使っているんだね。

http://www.kinokkusu.co.jp/etc/09zatugaku/hakase/ha-nameko_05.html

きのこの分類にはまだまだ謎が多いよ。しいたけなめこ級のメージャーきのこですらコロコロ変わってる。

http://www.kinokkusu.co.jp/etc/09zatugaku/mame/mame02-3.html

その後、引用した論文にもあるとおり、Pholiota microspora (Berk.) Sacc. (synonym P. nameko)というシノニムにnamekoという文字が残ったよ。

菌床栽培原木栽培について

なんだかんだでwikipediaがそれなりに情報量も多くてまとまっているよ。

菌床栽培 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%8C%E5%BA%8A%E6%A0%BD%E5%9F%B9

原木栽培 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E6%9C%A8%E6%A0%BD%E5%9F%B9

もしあなたなめこ栽培たかったら、すでに植菌済みのブロック菌床(なめこ栽培キット的なやつ)を買うと1週間くらいはニョキニョキ生えるなめこを楽しめるよ。

原木栽培も、適当雑木と、種駒(今の時期ならホームセンターにたいてい置いてある)と、ジメジメしたちょっとした林があれば簡単にできるよ。

http://www.kinokkusu.co.jp/saibai/sa-g-name.html

自分過去に短木栽培、長木栽培いずれもチャレンジしたことがあるけど、シイタケよりもずっと簡単で収量も確実だよ。長木なら、駒打って日陰に埋めるか腐葉土たっぷりのジメジメした完全日陰に転がしとけばいいよ。シイタケでよく使われるナラクヌギみたいな硬い木よりも、ブナ、シデ、サクラみたいな柔らかい木の方が菌の周りが早くて確実なんじゃないかなあ。

まだまだいろいろ書きたかったけど、夜も遅いしこの辺でやめておくよ。

またどこかで会えたらよろしくね。

追記だよ

ここまで読んでくれた聡明あなたもしかして「なんか物足りねーな」って思ったかな?

実はそうなんだ。業界的にはたぶん、正直そこまでニュースバリューのある話ではないんだよね。

というのも、おそらくごくごく一部の人たちの中では知られていたであろう「新しい品種作りたいけど、クローンみたいなのしかなくて掛け合わせできねー」「正確な記録は残ってないけど、たぶん全部F27が起源なんじゃねーの」ってことの遺伝的な裏付けが取れたってだけだからね。無論、優良株を持続生産するために必要研究が一歩前進したってニュース自体は大変喜ばしいけども。

きのこニュースになるのは嬉しいけれど、見出しにつられて勘違いした人が大量発生するのは嬉しくないし、だから私たちのようなきのこ好きが発信する必要があると思うのね。

当たり前だけど、今流通しているなめこ遺伝的に同じ(中国産については一部国産とは異なる可能性あり)と言ってもいいし、(福島を下げる意図は無いのだけど)特別福島県産のなめこが美味しいなんてことはないので、安心してなめこライフを楽しむと良いよ。

ちなみに、いまだに福島県産のきのこ放射性物質残留しているんじゃないか、なんてことを心配する人がごくごく少数いるけれど、菌床栽培物については全国どこでも似たような産地の原料使っているので変わりないよ。

一方で原木しいたけやホダ木の生産は、まだまだ一部の市町村で出荷制限がなされていたりするんだ。

https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/kinoko/qa/seigenfukusima.html

特にホダ木については事故以前に一大産地だった福島県産ホダ木がほとんど壊滅して、他県に流れてしまったという悲しい事態が起こってしまった。ホダ木の栽培は、20年サイクルくらいで林を皆伐しながら管理するので、一度生産を止めてしまうと再開するには膨大なコストがかかってしまうんだ。福島県のホダ木生産者の方の気持ちを思うと本当にやるせない。

  • なにこれ読んで面白い

  • domesticated は植物では「栽培化」と訳したほうがいいです。

    • 確かに、栽培化の方が自然ですね。ありがとうございます。 きのこ=菌類は植物よりもどちらかというと動物に近いグループと言われていたりするもので、家畜化という翻訳が面白くて...

  • なめこ有識者助かる

  • おさわり探偵のほうじゃなかった

  • えのきじゃなかったのか

  • 食卓に並ぶものがクローンでだってみたいな話で普通に面白いけどな

  • あとで読むよきのこなめこ

  • シノニムじゃ価値ゼロやろ (synonym P. nameko)というシノニムにnamekoという文字が残ったよ。

  • そんなことよりオメコしようや

  • 著者のひとりですが、的確な解説ありがとうございます。追記も本当にその通りです。 大学からのプレスリリースはこちらで見ることができます。ちょっと下の方にスクロールしてくだ...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん