田舎で料理人をしていた父の最後はかなり惨めなもので、末期の胃がんにより食欲もなければ味覚もおかしくなっていた。
恰幅の良かった体格は女性モデルのようになり、鍋をふることはおろか立つことも不可能になった。
父は田舎の料理人だった。料理に自信はあっても、人が少なく、みな貧乏な田舎では、父の料理にそこまで需要はなかった。
父は「銀座に食べにいきたい。料理の師がそこにいるから久しぶりに会いたい」とよくいった。
父はそれを叶えることなく死んだ。
料理人の父はそれらを食うこともなく、痩せ細って苦しんで死んだ。
亡くなったとき悲しいとは思わなかった。
店の椅子に座り、客が入るのを待ってじっとドアを見る父の姿を。