手ぇって言うたらさ。
いやふと思い出してんけどさ。昔バイトの帰り道に手ぇが生えとってさ。生えとってんて。
昔俺が住んでたアパートの裏にゴミ捨て場あってさ、そこの横になんか笹の地面から生えてる版みたいな草がわさってなっててんさ。前からなんかよぉ見たら手ぇみたいでキモい草やな〜ておもてたんやけど、バイトから帰る途中、その草のあいさからほんまの手ぇが生えとったん。
にょきっつうかこう、すって。まっすぐにさ。
それがさ柳みたいなきれえな女の人の手ぇとかならぎょってなるやん。いやぎょっとはなったよ、道端に手ぇ生えてんねから、そらウギョッとはなった。
でも、よく見たらその手ぇ、もうどう見てもおっさんの手ぇなんさ。指毛生えとるしわしわの…なんやの、道路工事とかしてそうな。ドカタっぽいおっちゃんの手ぇやってんな。
そいだらもう、どこぞの酔っぱらいがひっくり返って手ぇだけ出してんかなって思うやん。ぼくもバイト帰りでまぁまぁ酔っとったし…いや居酒屋のバイトやったから、常連の客とかによう酒奢ってもらっててん。毎日飲み会みたいなもんやったなあの頃…まぁそれはどうでもええねんけど。
んでさ、大丈夫ですか〜?救急車呼びますか〜?言うて。とりあえず引っ張り上げたろおもて、手ぇ掴んだんね。向こうもぎゅって握り返してくれたからああまぁ死んではおらんなって安心したのは覚えとるわ。
ふつうにあったかーい手やったんやけどさ。それが力いっぱい引っ張ってもぜんぜん動かんのよ。
そもそもさ、どんな草ワサワサなっとる言うてもたかが草やん。おっさんが転がり込んどったら、体とか足とか頭とか見えてこなおかしいやん。せやのに、その手ぇさ、そのまんま草の茂った根っこの方までぐって伸びとって、一番きしょかったんがさ、肘がないのよ。ちょうど、一緒に生えとった草とおんなじ、茎からそのまま葉っぱが生えとるみたいに。関節のない腕からおっさんの手が伸びとって。
ぞばばーーーーて鳥肌立ったわ、あれ。絶対やばいモンや!ってなって。手が冷たいニセモンやったらまだしもさ、ぬくたいおっちゃんの手やし、今も俺の手ぇぎゅーって握り返してんで?
慌てて振り払ってさ、慌てすぎて尻もちついたわ。俺すぐ尻もちついてまうんよね。足腰よわいんかな…。
んで尻もちついた俺の目のまえでさ、その手、なんか探すみたいにゆら〜てして、それからこっちにむかって小指出してきたん。
こう。そう、こうやって。
これは後から気づいたんやけどさ、これってあれやんな。ゆびきりげんまん。
なに約束させる気やったんやろね。
え?指切り?いやするわけないやんもう、もう普通にやばい怖かったから無言で俺ダッシュで逃げたわ俺は。いやもうねまじで怖い時は無言なんやって。歯ぁガッチガチに食いしばってダッシュよダッシュ。