IT業界での仕事のしやすさはプロジェクトマネージャー(PM)によって大きく左右されると思う。
僕が一緒に仕事をしてきた中で最悪だったのはプロジェクト失敗を叱った部長にパワハラの濡れ衣を着せて逃亡したPMだった。
そのプロジェクトではPMが提案した最新技術を採用することになっていた。
でも実装してテストすると「提案書」のパフォーマンスは到底出なかった。
提案書とは自分がプロジェクトに参加する前に作成され「試作プログラムをテストしたら凄いパフォーマンスが出た」という内容だった。
僕がプロジェクトに加わった時もPMは「これが提案型の仕事だから」と自慢気に提案書を見せて何度も読み返すように指示した。
でもプロジェクトメンバー達は「あれは立派な紙芝居だから(笑)」などと陰口を叩いていた。
プロジェクトメンバーからは「意味のない最新技術をやめて既存技術に変更しないとヤバい」との声が出ていた。
PMはそうした発言をする人を「後ろ向きな人」とレッテルを貼って遠ざけ、PMが「前向きな人」認定する仕事ができない人を重用するようになった。
その「何が何でも最新技術」というウルトラ頑固な性格は当然「パフォーマンス以前にそもそも実装できない」というデスマーチを招いていた。
そのため、通常は開発にタッチしない部長がレビューに参加することになった。
PMは「再テストは時間の無駄だし忙しいので無理」と猛反発したが部長が押し切った。
レビュー終了後もPMは頑固に再テストを拒んだので部長が直接、メンバーにテストを指示した。
それで明らかになったのは高パフォーマンをテストで再現できないどころかそもそもテスト仕様が不明なこと。
提案書作成のために試作プログラムの評価を担当した女性の派遣テスターはテスト仕様書も作らずにテストをしていた。
結局、提案書に謳われた試作プログラムの高パフォーマンスはどうやっても再現できなかった。
テスターは「私はPMに言われた通りにやりました。私は専門の学校に行っていないのでテスト方法はわかりません」の一点張りで泣き出す始末。
部長から「これでは提案が成り立っていないじゃないか!」と叱られたPMがどんな反論をしたのか僕は覚えていない。
のび太くんがママに叱られて涙をボロボロ流しながら腕をクルクル回転させてママに逆ギレする感じ、と言えばいいだろうか。
悪いのはのび太くん(PM)なのに必死にママ(部長)のせいにする情けない姿だけが記憶に残っている。
テスターからは「仕事に疲れたので1ヶ月の休暇を取りたい」と連絡があったと聞いた。
それを会社がどう処理したのか知らないけど二度と彼女を見ることはなかった。
数日後に本社から「パワハラ調査」が来てプロジェクトの主要メンバーが順番に会議室に呼び出された。
パワハラ調査といっても実際に聞かれたのは「部長がPMにパワハラをしていたか?」だった。
僕はもちろん否定して、なぜそんなことを聞くのかと尋ねたが教えてもらえなかった。
後になって部長からPMが本社にパワハラ被害を訴えたと聞いた。
プロジェクトを失敗させて叱られたからパワハラだと騒ぎまくってるのか。
多分、他のメンバーも同じだったと思う。
歓迎会の席で部長に「前のPMはどうしたんですか?」と聞いてみると渋々「XX事業所に異動した」と教えてくれた。
まわりの人もみんなびっくりだった。
あれだけのことをしたんだから当然、退社したと思っていたから。
新PMのもとで最初にやったのは元PMの作った提案書を否定する資料の作成だった。
後ろ向きな仕事ではあったけど、新PMのプロジェクトを立て直そうという姿勢に僕のモチベーションは上がった。
部長と役員が同席して顧客に頭を下げ、新PMがその資料の内容を説明したそうだ。
一体、今までの苦労は何だったのかと。
ただ、意味のない最新技術のせいでデスマーチだった分があるので大赤字だと聞いた。
PMは気まずそうに軽く頭を下げたが、部長は鬼の形相でPMを完全無視。
あとで部長から「自分でプロジェクト失敗させてパワハラだと騒ぐ卑怯で卑劣な人間とお前は仕事ができるのか?」と釘を刺された。