2022-01-24

ちあきなおみの「喝采」に衝撃を受けた話

ちあきなおみの「喝采」を聞いて衝撃を受けた。

 

私は1992年まれなので、「喝采」は生まれ20年前の曲である

両親が世代なのもあり、日頃から昭和歌謡曲を何曲か耳にしていたが、「喝采から受けた印象は他の曲とはまったく異なっていた。

激しい喪失感と、とんでもない説得力があり、聞いた後耳の後ろがじんわりと熱くなっていた。

 

喝采」がなぜ、平成生まれにこんなにも刺さったのがが気になった。

曲がリリースされた当時を知る人からすれば、「何を今更」と言われるかもしれないが、とにかく私の「喝采」への思いを文章にしてみたいと思う。

ストーリー構成

まずは、順を追って、ストーリーについて思うところを書いてみたいと思う。

 

いつものように幕が開き

恋の歌うたうわたし

届いた報らせは 黒いふちどりがありました

歌い出しで、ストーリー主人公歌手だということがわかる。

そして、いきなり人が死ぬ。とんでもない急展開。

いきなりすぎて聞き手が一気に臨戦態勢に入る。入らざるをえない。

 

あれは三年前 止めるアナタ駅に残し

動き始めた汽車に ひとり飛び乗った

さら唐突時間を遡り、聞き手を置き去りにする。

しかも、何やら複雑な事情連想させるような「アナタ」との別れである

臨戦態勢に入った聞き手想像力掻き立てる

なぜ「アナタ」を駅に残すのか、なぜひとり飛び乗るのか。

その情報の少なさと、リアルな情景描写が、一気に聞き手を曲の世界へと引きずり込む。

 

ひなびた町の昼下がり

教会のまえにたたずみ

喪服のわたしは 祈る言葉さえ 失くしてた

時系列がぐっと現在へ引き戻される。

「黒い縁取り」という唐突ショッキングでそして曖昧表現が、「教会」や「喪服」といったキーワードから、徐々に確かな死であったという確信へと変わる。

それはまるで、主人公が徐々に死を実感していったのを聞き手追体験させる。

 

つたがからまる白い壁

いかげ長く落として

ひとりのわたしは こぼす涙さえ忘れてた

曲が2番に入っても、なおも事態好転しておらず、悲しみの中にあることがわかる。

このあたりで、「止めるアナタ駅に残し」という、奥歯に引っかかるようなストーリーが、じわじわと悲しみに追い打ちをかける。

どうしても、悲しみの底に沈む主人公共感してしまう。

 

暗い待合室 話すひともないわたし

耳に私のうたが 通りすぎてゆく

アナタ」とどういう関係だったのかは分からないが、「待合室」の中で話すひともなく孤独わたし

そんな「わたし」にトドメの一撃をカマすのは、なんと冒頭に出てきた「わたしの歌」という伏線の回収。

アナタをなくし、悲しみの底にありながら、そこに流れるのは自分の「恋の歌」という大変皮肉の効いた状況となる。悲しい。

 

いつものように幕が開く

降りそそぐライトのその中

それでもわたしは 今日も恋の歌 うたってる

そんなに辛い状況であっても、恋の歌を歌わないといけない。歌手から

という大変アッパレな落ち。悪い意味で。

 

以上がストーリーというか歌詞である

 

時系列が飛び飛びになるので、私は正直1回聞いただけでは理解できなかったが、最終的に以下の時系列だと解釈した。

死んだ(ちょっと前)→別れた(3年前)→教会で喪服(ちょっと前)→待合室(ちょっと前)→歌ってる(今)

おそらくだが、順を追って説明されたらここまでの感動と共感は無かっただろう。

曲調

とんでもない急展開で、しかショッキングな内容を、ゆったりとしたテンポ聞き手に伝えてきている。

そのため、「黒い縁取りがありました」や、「暗い待合室 話すひともないわたしの」といった、直接的な描写だけれども、婉曲的な表現意味をじっくりと考える間が与えられる。

考える時間が与えられるほど、ストーリー主人公に親近感が湧くし、衝撃的な落ちにも感動を受ける。

題名

歌詞の中には「喝采」という言葉は出てこない。

しかし、ストーリーに引き込まれ主人公に同情した状態での、今日も恋の歌を歌わなければならない「わたし」へは、たしか喝采を贈りたくなるなぁという気持ちになった。

そういう意味では「喝采」という題名には大変納得する。

 

まさか歌詞の冒頭が「曲の終盤」と「曲の題名」への2つの伏線になっているとは思わなかった。

 

まとめ

色々思ったことはあるが、まとめると、以下の4つの要素が盛り込まれているということに気づいた。

そして、それを短い歌詞でやってのけた表現力や構成力。加えて、曲調や歌手歌唱力などからくる説得力に圧倒され、総合的に私に刺さったのではないかと思った。

  • ハイバイ(という劇団)の『投げられやすい石』のラストシーンで歌われる『喝采』に、 どういう感情になったらいいのか混乱して、周囲の観客がゲラゲラ笑う中、しゃくり上げるほど...

  • 歌詞や題名のことを中心に論じているけど、曲の構成もなかなかだよ。メロディーとかリズムとかコード進行とか。特に「あれは三年前」から始まる真ん中の部分で急に流れが変わると...

  • なぜ、平成生まれにこんなにも刺さったのか   ・・・ なあに、音楽なんて、二百年前のだろうが三百年前のだろうが、現代の人間にまで刺さり続けてるのもあるし、そういうのっ...

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