現在、弥生では「事業コンシェルジュ」を標榜し、主要な顧客層である中小企業・個人事業主に対し、さまざまなサービスを提供する方針をとっている。その方向性には2つあり、1つは「業務支援サービス」として、会計ソフトの提供などを通じて業務効率の直接的な向上を支えようというアプローチ。そしてもう1つが、起業・開業から事業承継まで、中小企業のビジネスそのものを支援する「事業支援サービス」である。
「事業支援サービス」については、全国各地の会計事務所とも連携しながら、小規模事業者が必要とする支援策を用意。11月にもスタート予定の「資金調達ナビ」では、行政からの補助金といった方法も含めた資金調達手段が一括検索できるようにする。すでに3月には「起業・開業ナビ」を公開しているが、今後も12月には「税理士紹介ナビ」、2022年に「事業承継ナビ」を展開する計画だ。
「従来の弥生というと、事業者向けの業務ソフトを提供するところにだけフォーカスが当たりがちだったが、今は会計事務所向けの支援であったり、企業の事業そのものの支援にも取り組んでいるところをぜひご理解いただきたい。」(岡本氏)
そのうえで岡本氏は、企業活動を含めた社会的システム全体について「デジタル化」を目指すべき、との姿勢を改めて表明した。
ここで言う「デジタル化」とは、「電子化」とは異なる概念だ。戦後、コンピューターのない時代に支配的だったのは「紙文化」であり、その“紙”のやり取りを単純に電子データに置き換えたのが「電子化」。電子データを部分的に利用してはいるものの、業務のあり方は紙文化時代の発想とそれほど変わらない。
これに対して、電子データありきで業務を発想し、そのフローについてもゼロから見直すのが、岡本氏の主張する「デジタル化」だ。例えば行政の電子化は少しずつ進行しているものの、行政に対して書類などを提出する事業者側にとっては、それまで紙だけでよかったものが電子データもプラスして管理する必要が発生したりと、必ずしも業務効率化に直結するものではなかった。
電子化ではない「デジタル化」は、この5年で海外でも急速に進んだと岡本氏は指摘する。シンガポールとオーストラリアでは、2018~2019年にかけて電子インボイス規格「Peppol」が採用され、着実に普及が進んでいるという。
現状の日本におけるインボイスとは、2023年10月の制度スタートが予定されている「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」がなんといっても想起される。企業間でやり取りされる請求書について、販売側(売り手側)が消費税の納税事業者であることを意味する、登録番号の記載等の要件が満たされなければ、仕入れ側(買い手側)はその金額を税額控除の対象にできないため、消費税の免税事業者を中心に大きな影響が出ると予想されている。
複雑な消費税計算を伴うインボイス制度を、紙の書類だけで運用するのは現実的ではない。会計ソフト等なんらかのコンピューター処理を介在させる必要があるとみられ、市中の多くの企業が対応を進めることになる。インボイス制度の施行は、あらゆる業務の「デジタル化」を目指す弥生にとって、それまでのビジネス慣習を根本的に見直すための好機……というわけだ。
とはいえ、事は弥生の1社だけで完結させられる規模のものではない。そこで2020年7月、「電子インボイス推進協議会(EIPA)」を立上げ、さまざまな立場の企業と連携しながら、標準規格の策定などを進めている。
EIPAではまず、請求業務のインボイス対応を滞りなく実現するための準備を優先。日本においてもPeppolの採用を訴えている。Peppolはヨーロッパ発祥の規格だが、前述のようにシンガポールやオーストラリアでも採用され、グローバルスダンダートとなる可能性が高い。また、EIPAの検証では、日本の商慣習にも対応できる柔軟性が備わっているという。
「電子インボイス推進協議会(EIPA)」では、Peppolの採用を訴えていく
ただ、最終的には、見積書の発行から発注書のやり取り、さらには請求金額と受取額の付き合わせ(消込)まで、企業間取引で必要なあらゆる業務を全てデジタル化・自動化するところまでを、電子インボイスで実現しようというのがEIPAの目標だ。
「全てをデータでやり取りするという考え方は、特段新しいものではなく、大企業を中心にここ20年で広がっているし、特定の業界内で閉じたかたちで使われている。これを中小企業でも、誰でも使えるようにするのがEIPAの目標だ。」(岡本氏)
「見積書の発行から発注書のやり取り、さらには請求金額と受取額の付き合わせ(消込)まで、企業間取引で必要なあらゆる業務を全てデジタル化」できている弊社は零細だからできることだったか。(自動化は半分しかできてないが)