2021-10-04

ある書籍要約系サイトの想い出

ソフトウェア開発における名著とされる読みものがある。かつて、そういった著作エッセンスをひたすら抜き出して黙々とまとめていくはてなダイアリー存在した。2010 年代のことであるGoFデザパタ本とか UNIX 哲学とかピープルウェアとかそういうの。ジュンク堂本棚でいえば「SE 読みもの」というやつだ。業界に入って間もなかった当時の自分は、技術的な相談ができる大人が周囲にいなかった。いま思えば、残業中のオフィスで長いコンパイルを待つあいだ、ぼんやりとこのはてダを読み、目の前のやるせないソースや、所属するチームが置かれた状況について思いを巡らせながら、ガス抜き感覚でこのはてダを読む時間が好きだった。どの項目も歯切れの良い紋切り型文体で読みやすく、読んでいるうちに不安のかたまりがスルスルと解かれていき、気持ちラクになるような気がしたのだった。

その後、わたしアラサーになるころには、そこで紹介されていた大部分の原著書店で購入し物理的に所持するに至っている。あのはてダがなければ、本屋でも仕事関連の棚で足を止める人間にはなっていなかったのではないかと思う。その後、当時のはてダの内容を抜粋したもの秀和システム書籍化され出版される運びになった。ファンだったわたしは発売をとても楽しみにしていた。が、本屋に並んだ書籍を手にとってみると、あのはてダにあった宝物のような輝きはすっかり失われていた。なぜかはわからないけれど、説得力が損なわれている気がしたのだった。書籍化の都合、はてダに貼られていた Amazon へのリンクが取り払われ、原著との接続性がいくぶん薄らいでしまったせいかもしれない。またこ書籍化に伴って、はてダも閉鎖されてしまった。もっと新刊の売上にも関わるだろうし、あの「要約」は原著に対する網羅度がかなり高いもので、権利面ではかなりグレーなものだったように思うから、閉鎖されるのは当然の成り行きだったと言える。が、自分の成長期にあたる年代にあのはてダがあったことは本当にキャリアの上で助けになったと感じているし、原著を所持していてもなおあのはてダを参照したいという思いがあるくらい、とても優れたものだった。他人の「きれいなノート」を借りて勉強していたような感覚というか、そんなような。「新人に読ませたい n 冊の本」というタイトルのクソ記事がもはや春先の業界風物詩になっているが、そんな記事とは段違いにもっと直接的に本が持つ価値を訴えてくるコンテンツだったのだった、少なくともわたしにとっては。

図解界隈というのが流行っていると聞いて、そんなはてダがあったことを思い出した。結局のところ「SE 読みもの」も自己啓発本に他ならないし、個人的DDD

なんて宗教だとすら思う。それにしても「要約」がきっかけで世界が広がるとことは実際あるかもしれないよ、ということが伝えたかった。

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