うわつまんね…
主人公の本郷沙織は今まで5作の小説を出したらしい。まだ26で5作も出版させてもらえたのはすごいことだ。自室らしき場所も大きなソファのある広い部屋で(実家が太いか副業で儲けてるのでなければ)印税収入の多さを伺わせる。不満轟々の濡れ場シーン込みでこれだけ売れるなら他のところに大きな強みがあるはずだ。
それなのに本郷とその小説がちっともすごく見えない。小説はすごいかすごくないか以前にどんなものか全くわからない。純文学かエンタメか、現代ものか歴史ものかファンタジーかSFか、客層はどこか、推理ものか職業ものか……そしてなによりその強みが1mmも出てこない。本郷自身も編集も同窓生たちも揃いも揃って不出来な恋愛描写についてしか語らないからだ。
本郷は恋愛描写以外のシーン、読者から高評価を受けてるシーンへの情熱をひとかけらも見せない。
同窓生は面白い部分への感想も言わずにいきなり「でもさ、初々しいよね」をぶち込むなかなか無礼な人。
そして肝心の編集。編集は最初の読者として作家を客観的に評価し強みを生かし弱みをカバーするのが仕事なのに、こいつは本郷の真面目な相談に「処女乙とか書かれてたんでしょ」「無理っすよ」と素人でも言えるような煽りから入る無能。本郷先生の強みはこれこれだから恋愛小説よりもそれを生かせるようなジャンルにしましょうとか、濡れ場描写に得意分野を組み合わせて独自性を出しましょうとか、そういうことを言うのが仕事だろう。仕事だろう。
仕事だよ。何もったいぶって無駄に溜めて溜めて、本郷が追い詰められてからようやく青筋立てて叫んでるんだよ。それぞれの作家に合った提案をするのは編集の基本業務だろ。最初から普通にやれ。
無能がついにちょっと仕事をしただけのシーンで何を感動すればいいんだ?
この物語は「普通という王冠」からの脱却を描いているようだが、作家ともあろうものがナイーブに普通を目指すのか。小説家は個性的なものだと思われてるけど実は私には普通の生活への憧れがあって云々、とかそういうセリフも挟まれていない。
それでも本郷がそういう人間なのはまあわかる。現実にもそこそこいるかも。しかし編集さあ…「普通の恋愛小説は書けない」って恋愛小説舐めすぎ。世の中で百花繚乱に咲き誇る恋愛小説たちを雑に普通で括るなよアホか。