2021-07-13

なぜサウザン・ドレッシングは「サウザン」なのか

サウザン・ドレッシングとは、マヨネーズベースビネガーケチャップなどを加え、みじん切りにしたピクルス玉ねぎを混ぜこんだドレッシングのことを言う。

正式名称は「サウザンド・アイランドドレッシングである

英語ではThousand Island Dressingと書く。

Thousand Islandとは、アメリカカナダ国境にあるオンタリオ湖と、そこから流れ出すセントローレンス川のあわいに浮かぶ「サウザンド諸島」のことである

このドレッシングがなぜ「サウザンド諸島」の名を冠するのかについては、日本では「ドレッシングに浮かぶピクルスがサウザンド諸島のようだから」と説明されることもあるが、Wikipediaでは普通に「サウザンド諸島で生まれドレッシングから」と説明されている。

前者の説は、英語圏ではまったく見かけないので、おそらくキユーピーが広めたガセだろう。

さて、「Thousand」のカナ表記は、通常なら「サウザンド」である

にもかかわらず、なぜ日本では「サウザン・ドレッシング」という表記が定着したのだろうか。

疑問に思った増田は、いつものようにGoogle Booksへと飛んだ。

軽く検索してみたところ、古くは1952年「American Cooking in Japan」でサウザン・ドレッシングが紹介されていた。

この本は、日本駐留している米軍兵士の妻が、日本人の家政婦にアメリカ料理を教えるための本だったらしい。

American Cooking in Japan - Elizabeth B. Patterson - Google ブックス

同じく1952年の「七輪で出来るアメリカ料理」という書籍も出てくる。

この本はロングセラーだったようで1970年に第23刷を数えていたという。

七輪で出來るアメリカ料理 - George E. Engler - Google ブックス

こうした英語日本語を対訳した料理本によって、サウザン・ドレッシング戦後日本に知られていったことは、まず間違いないだろう。

ただし、この時点ではまだ「サウザンド・アイランドドレッシング」と表記されていた。

では「サウザンド」が「サウザン」と表記されたのはいつ頃なのか。

まず、キユーピーが「サウザンアイランドドレッシング」を最初に発売したのは1963年のようだ。

ドレッシング・サラダの歴史 | キユーピー ドレッシング

ただし、この写真を見るかぎり、ラベルにはThousand Island Dressingと書かれているだけで、それを「サウザン」と読ませていたかはわからない。

商品名は「キユーピーアイランド」だったらしい。

「サウザン」表記確認できるかぎり最も古いのは1973年のキユーピードレッシングの広告で、右下のほうに書かれているのを見つけることができる。

他社ではライオン1973年ごろに「サウザンアイランド」のドレッシングを発売していたようだ。

マコーミッククリーミードレッシング(イタリアンフレンチサウザンアイランド)

1979年ごろに発売されたネスレマギークリームドレッシングもこう謳っていた。

おなじみのフレーバーフレンチをはじめ、スパイスのきいたイタリアンピクルス甘味いかしたサウザンアイランドの、 3 つのおいしさがそろっています

ちなみに同時期のカゴメは「サウザンド・ドレッシング」派だったようだ。

たとえばスパゲッティピザなどのナポリタンソース、濃厚なサラダソースのサウザンドドレッシング。そのほか、トマトソースフレンチドレッシングケチャップを加えてトマトドレッシング

サラダ文化ドレッシング文化日本に広まったのが1970年代であり、それに乗って大手企業ドレッシングバリエーションを拡充していくなかで、「サウザン」という表記が広まっていった、ということが言えると思う。

では「なぜ各企業がサウザンドをサウザンと表記したのか」について検討したい。

まず思いつくのは、当時はまだ「Thousand」のカナ表記として「サウザンド」が定着しておらず、語末の子音が抜けて「サウザン」と表記されることもあった、という可能性だ。

しかGoogle Booksで戦前書籍などを検索してみると、「Thousand」のカナ表記は当たり前のように「サウザンド」で定着しているし、「サウザン」と書けば「Southern」、すなわち「南部」を指すことが圧倒的に多かったようだ。

となると、さすがに1970年代にもなって「Thousand」を「サウザン」と表記することは無いと思われる。

次に「サウザンド・アイランド(千の島)」を「サウザン・アイランド(南の島)」と勘違いした可能性が思いつく。

が、サウザン・ドレッシング最初に出したキユーピーは、ラベルに「Thousand Island Dressing」と表記していたので違うだろう。

そうすると、単なる「略称であるとか、「語呂の良さ」を重視したものなのではないか

特にキユーピーが「サウザン」と表記していたのは普通に略称だろうと思う(ちなみに現在商品では「1000アイランド」と表記されている)。

キユーピー最初に「サウザン」として売り出して知名度を高めたので、他社もそれに合わせて「サウザン・アイランド」だとか言い始めたのではないか

また、カゴメ表記していたような「サウザンドドレッシング」では「ド」が重なってしまうので、「ド」がひとつ無くなって「サウザンドレッシング」になったということもあるかもしれない。

からは以上だ。

誰かキユーピー(@kewpie_official)に真相を訊いてきてくれ。

追記

anond:20210714062246

1960年朝日新聞縮刷版に「サウザンアイランド(ピンク色のドレッシングの作り方」とあるように見える。

これは私も調査の初期に見つけて、一時は「朝日新聞黒幕説」も考えたのだが、そのときは「70年代に用例が増えたこと」のほうを重視して除外したのだった。

しかし、ひと晩ぐっすり眠って整理された脳であらためて確認してみると、この1960年朝日新聞記事は、おぼろげながらキユーピーとの関係示唆しているように思える。

朝日新聞縮刷版 - Google ブックス

サウザンアイランド(ピンク色のドレッシングの作り方アメリカ代表的ドレッシングでローンのある地名を取った名で、ピンク色のドレッシングの中の、色玉子)を島にたとえたもの

そう、キユーピーがしきりに主張している「ドレッシングに浮かぶ具材をサウザンド諸島見立てた」という説が、既にここで出てきているのだ。

ドレッシングなどに関するQ&A|よくお寄せいただくご質問|お客様相談室|キユーピー

細かく刻んだピクルスが、ドレッシングの中に「1000の島が浮かんでいる」ように見えることから、この名前が付いたようです。

キユーピー社員なりが1960年のこの記事を読んでサウザン・ドレッシングを知り、自社で製品化したのが1963年の「キユーピーアイランド」だった、という可能性は充分にありうるのではないか

これもやはりキユーピー(@kewpie_official)に訊ねてみたいところである

あとはこの朝日新聞の実際の紙面も確認してみたいが…。

記事への反応 -
  • 明治期、山口県に住む中居サワさんが発明したチシャにかけるタレが元祖

  • サウザンはものにもよるがヴィーガンが使える数少ないドレッシングのひとつ にんじんとかがメイン(だっけ?) もちろん卵とか使っちゃってるのも多いけど

    • オーソドックスなレシピでは必ずマヨネーズやタマゴが入るはずなので 普通にフレンチドレッシングやイタリアンドレッシングのほうが良いと思う。

      • ヴィーガンは好きではないが、ドレッシングからマヨネーズを排除する運動については支持したい。

  • シンプルに日本語発音だとサウザンドよりサウザンのほうがいくらか伝わりやすいってのはあるかもしれないな 動画とかでネイティブの発音を聞いてもサウザンドって言ってるじゃない...

    • サウザンド・サウザンド・サウザンド… アマンド、アマン ザナルカンド、ザナルカン ニュージーランド、ニュージーラン ハズバンド、ハズバン うう〜ん

      • シーフー・ドリアになってる世界線はどこかにありそう。

  • あのドレッシングの本当の由来は千島列島よ 戦後政治的な理由で捻じ曲げられてしもうたんよ

  • 疑問に思った増田は、いつものようにGoogle Booksへと飛んでみて、軽く検索してみたところ、 1960年の朝日新聞縮刷版に「サウザンアイランド(ピンク色のドレッシングの作り方」 とあるよ...

    • それで朝日新聞黒幕説も一度は考えたんだが、まあ外れ値みたいなものかと思って、 70年代に用例が増えていることのほうを優先したんだよな。 が、あらためて見てみると一考の余地が...

  • ネイティブっぽい発音で君もオシャレ感を出していけ

  • オー、ニホンジンの皆サン ハツオンが オーノーね ワタシ ノ 発音 真似してクダサーイ   スゥズンー ダァレッシンー   オーケー?

  • Southernをサウザンと読むことなんかないよ。耳おかしいんちゃう

  • 末尾のドが落ちるのはごく普通のことだし、その次がドで始まるならなおさら

  • 1000のドレッシングを倒してドレッシング界の頂点に立つドレッシングという意味 百獣の王みたいなもん

  • なぜ「かしゆカンガルー」は「かしゆ」なのか

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