2021-01-05

モニタリング項目(4)検査の陽性率と3日前の"(参考)検査実施件数"

東京都新型コロナウイルス感染症対策本部)が、その日の感染者数等の発表の際に、参考値として3日前の検査実施件数掲載していることから、しばしば、①陽性判明数÷3日前検査実施件数を「検査陽性率」と捉える人がいる。

そのような捉え方をした者からは、たとえば12/30は陽性判明数944人に対して3日前(12/27)検査実施件数が2084人だったこから、「検査陽性率」が45.3%であった、というようなコメントがなされる。

他方、これに対して、②東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトの「モニタリング項目(4)検査の陽性率」を引き合いに、12/30の検査陽性率が10.1%であるなどと主張する者がいる。(2021-01-15追記:なお、モニタリング指標(4)の12/30の値は当記事投稿である1/4更新時点では10.1%だったが、1/14更新時点では10.0%である。)

どちらも誤りである

12/30の実際の検査陽性率は何%である

1/4更新時点のデータによれば、同日のPCR陽性798, 抗原検査陽性164, PCR陰性5262, 抗原検査陰性1062より、陽性962÷検査件数7286 = 13.2% であるから検査陽性率は13.2%となる。

【2021-01-09追記 1/8更新時点のデータによれば、同日のPCR陽性873, 抗原検査陽性177, PCR陰性5970, 抗原検査陰性1191より、陽性1050÷検査件数8211 = 12.9% である。(追記ここまで)

①3日前検査実施件数と発表の関係について

検査しても必ずしも当日中に結果が出るわけではない。3日前検査実施件数注釈※2 検査から結果が出るまでは3日程度要する。なお、この検査結果と本日の報告数が一致するものではない。(陰性確認を含む)と書かれているとおりである

もっとも、実は都の注釈にいう「検査から結果が出るまでは3日程度要する」という記載が、どうやらあまり正確ではないようだ。

この検査実施件数PCR検査と抗原検査件数の合計らしい。しかし、PCR検査検査機関に検体を送る等の都合から結果が出るまで数日かかるのに対し、抗原検査は簡易検査キットがありその場で数十分程度で結果が出る。

そこで、3日前のPCR検査件数と当日の抗原検査件数の和を分母にすると、当日の陽性判明数を分子としたときに、もう少し現実的な値が出る。

たとえば12/30の陽性判明数944人に対し、(12/27のPCR検査2761)+(12/30の抗原検査1226人)=3987人を分母にすると、陽性率的なもの23.7%になる。なお、ここでの「12/27のPCR検査」や「12/30の抗原検査」の人数は、都のモニタリング項目(4)の「テーブルを表示」すると出てくる、12/27のPCR検査陽性者数326・同陰性者数2435、12/30抗原検査陽性者数164・同陰性者数1062をそれぞれ足した数である

ただし、このような修正を加えてもなお、後日確定する検査陽性率とは乖離がある。

 

この乖離の原因は、「3日前の検査実施人数」が、発表時点までに報告された未確定の数であることにある。3日前だった日の検査実施件数は、後日、増える。

たとえば1/2の報道発表における「検査実施件数12月30日」は3816人だが、現在の都サイト(4)のテーブルにある12/30の(PCR|抗原)検査(陽性|陰性)者数の総和は、1/4更新時点で7286人である。おそらく1/3以降も検査報告が届いたためだろう。

検査が陽性だったものから優先的に報告されているのであろうか、検査数の伸びに比べると、陽性判明数の伸びは少し緩やかな傾向がある。そのため、ある日の検査陽性率は徐々に下がる傾向がある。

 

結局のところ、たとえ検査日と判明数の日付を対応させたとしても、速報値ベースでの陽性率的なものは、後日確定する真実検査陽性率と比べると高いものとなる。

モニタリング項目(4)と、当日の検査陽性率の関係について

モニタリング項目(4)は7日移動平均であって、「その日の検査」における陽性率ではない。このことは、都のサイト陽性率:陽性判明数(PCR・抗原)の移動平均検査人数(=陽性判明数(PCR・抗原)+陰性判明数(PCR・抗原))の移動平均と書かれているとおりである

実際の12/30の検査陽性率は前述の通り13.2%であるから移動平均を用いたモニタリング指標(4)の10.1%より高い値である

たまに誤解している人がいるが、「検査陽性率」について移動平均を用いなければならないという決まりは無く、むしろ統計を取る目的に応じて任意の期間について計算するものである。都が7日移動平均を用いているのは、「モニタリング」という目的に照らして、集団感染発生や曜日による数値のばらつきにより、日々の結果が変動するため、こうしたばらつきを平準化し全体の傾向を見る趣旨から過去7日間の移動平均値をもとに算出しているのであるviaサイト)。

(したがって、「7日移動平均にしないと誤り」という意見は誤りである。)(さらに細かいことを言えば、「当日検査陽性率の7日分の平均」ではなく、「7日分の検査数に対する7日分の陽性数の割合」なので、「検査陽性率の7日移動平均」という言い方は不正確だろう。)

曜日によるばらつきについて実際に、(移動平均では無く)当日の検査数と陽性判明数検査数をもとに当日の検査陽性率を計算すると、日曜日のたびに検査陽性率が前後の日の1〜2割増の値となっている。おそらく、日曜日検査数が少ないため、事前確率が高い患者(新型コロナ感染の疑いがより強い患者)を優先的に検査しているのであろう 。

 

都のモニタリング項目(4)は、7日間移動平均を用いているがゆえに変動がそれまでの動きで打ち消され遅行指標となる。

加えて、前述のとおり検査数・陽性判明数は数日かけて報告が上がるにつれて増えるため、近い日ほど小さな数となり、平均をとった際のウェイトが小さくなる。より古い日の検査結果に引き摺られる。

そして、計算間内の陽性判明数・検査件数は未確定なので、同じ「1月3日」のモニタリング項目(4)の値であっても、1/4時点の値と1/10時点の値は異なる。

このように「当日の」モニタリング項目(4)の値は現実検査陽性率の変化に対して数日遅れる鈍い指標なので、陽性判明数が急増した特定の日の当日にモニタリング項目(4)の値を持ってきて何かを語るのは、賢明とは言えない。

こんな"不正確"な値が何の役に立つの

速報値と真の検査陽性率との乖離は概ね一定法則に従って生じるため、速報値の変化は真の検査陽性率の変化を反映している。

また、検査陽性率は、水が溢れたり沸騰したりするのとは異なり、何か劇的な変化をもたらす閾値に関わるものではない。そのため0.1%単位の正確な数値は不要であるし、1日単位の変化も重要ではない。

したがって、7日間移動平均を用いた速報値をモニタリングすることで、真の検査陽性率や、感染蔓延状況・検査体制の充足性の参考とすることができる。

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