たぶん今の都内(=23区)の中学進学事情をよく知らない人が多いと思うので、概説してみたいと思う。
昨年、61465人の中学卒業者のうち、45678人が都内の公立中学校に進学した(都の公立学校統計調査報告書より算出)。それ以外を、ここでは中学受験をして中高一貫校に進学した者とみなしてしまおう(実際には単に引っ越ししただけの人も多くいるはずだが、簡単のために)。
都内で均すと、一貫校進学率は25.56%である。四人に一人だが、これを個々の区に分けていくと違う光景が見える。
各区の一貫校進学率は以下のようになっている。
>40%: 3区
>30%: 9区
>20%: 5区
<20%: 6区
都内で最高の一貫校進学率を誇るのが、港区。48.17%で、つまり同級生の半分が地元の中学校に進学しない。一方で最低の江戸川区は12.44%だ。都内でも区によって四倍の差が出ているのだ。
なにがこの違いを説明するのかというと、単一の原因はおそらくないと思われる。が、ちょっと面白い統計がある。一貫校進学率と、住民の大卒率(大卒者÷(人口-在学者))(2010年の国勢調査より算出)には強い相関があるのだ(決定係数0.835)(もちろん区の平均年収とも相関があるのだが、平均年収が極端に高い区がいくつかあるせいであんまりうまくフィットしない(決定係数0.536))。
匿名ダイアリーにはグラフが載せられないので、大卒率47.54%, 進学率48.17%の港区と、同22.44%, 12.44%の江戸川区を線で引いて、その他の区を適当に散らばらせたようなグラフを思い浮かべていただければと思う。
このように、都内の大卒者では「資力があって教育方針に強いこだわりがなければ、中学受験をするのが普通」という環境になっているのだ。
そこには既に公立校に対する蔑視や警戒心すら無いかもしれない。
さて、教育方針に強いこだわりがあり、積極的な意思を持って公立中学校を選ぶことを考えてみよう。つまり、十分な資力と最高の学力があってですら、あえて公立中学校を選ぶような状況だ。
一貫校に対する公立中学校のメリットとして「多様な生徒と三年間を過ごすことができる」と言われる。だが、既に都内の公立中学校からは多様性は失われているのだ。
例えば、都内最大の人口を抱えるのは世田谷区(77.7万人)だ。もし地方に住んでいるあなたが都内に引っ越すとしたら、ここに住む可能性は十分高い。そして、この区の一貫校進学率は36.81%だ。クラスの中で成績の良い子や資力のある家の子が、中学に進学するにあたって上から順に1/3ほどまるごと抜けてしまうのだ。
おそらく中学校における多様性というと、頭のいい子から勉強の苦手な子、お金のある家の子から給食代が払えない子まで、進学や就職をしてしまったらなかなか接することのできないタイプの人間と付き合えることができる、そういう状況が期待されているだろう。
しかし、都内の公立中学校では、そういう状況は期待できない。望ましい条件を満たした1/3の子がすぽーんと抜けてしまった状態をもって、多様性があるといえるだろうか?
今度小学校の授業参観に行ったら、頭の良い子や育ちの良さそうな子を1/3ほどピックアップしてほしい。そして、その子らを除いた状態で脳内でクラスを編成してほしい。それが公立中学校でのクラス編成になるだろう。
実際、中学受験時には偏差値50(上位1/2が入れる)だった学校は、高校受験時には偏差値60(上位1/6)から65(1/15)あたりにランクインする。多様だった小学校の教室から優位にある生徒をごそっと引き抜いて、残った生徒で成績をつけると、こういうことになるのだ。
更に、多くの一貫校が高校からの編入を取りやめつつある。いくら公立中学校で多様性を満喫し、高い成績を得たところで、進学の選択肢は既に限られたものとなっているのが実情だ。
そういったわけで、おそらく、都内において公立中学校を積極的に選ぶ理由は既に無くなっている……というのが2020年の状況だ。
(余談だが、学力資力に勝る生徒が数多く抜けてしまうとはいえ、都内の公立中学校の治安は悪くない。いじめ・暴力件数が私立と大幅に違うということはないし、ひと目で分かる不良中学生というのも(自分が住んでいる貧しい下町ですら)見たことがない。ガラス窓は割れない、火災報知器も鳴らない、タバコの不始末で学校が燃えることもない、家庭のお金を数十万円にわたって貢がせる生徒もいないし、万引した品の交換会も開かれない。治安だけが理由で一貫校進学を考えているなら、公立でも問題ないと思う)
そして相変わらず存在自体を無視される高専の存在