2020-08-12

学生起業家の末路(研究者志望END)

小さい会社経営している。博士号を持つメンバーを中心に顧客研究支援する仕事をしていて、今期は黒字になりそうだ。

こう書くと自分で読んでも順風満帆に思うが、私の心持ちはかなり違う。

毎年新年度を迎えると人件費の確保に心を砕き、年度内は払えるようになると次年度を想像して震え上がる。そういう繰り返しがここ数年のパターンになっている。最近、ふとしたこときっかけで、現状を疑問に感じるようになった。

すこし昔の話をさせて欲しい。

私は地方の、おそらくそ貧乏でもないラボ大学院生をしていた。時々教授が外部資金をとってくれると、研究資材をストックして細々と使う。スタッフはいない。ホームページサーバー管理学生が交代でこなした。

大学院生とき卒業したら研究から離れてサラリーマンになろうと思っていた。私の研究は、とても役に立ちそうになかった。それがたまたまビッグデータ/データサイエンス流行に乗り、博士論文研究特許を取って会社をつくった。もちろん何年もやるつもりはなく、流行りの間だけ研究費が稼げれば儲けものだと思っていた。

幸運が度重なり、会社の人は増えた。会社から発表した論文も正確な数が答えられなくなった。そんな中である日、数百万円分の資材がダブついていることがわかった。大学院生ときの私に渡したなら、きっと嬉々として全部持ち帰っただろう。

いまの私は、余っている数百万円分の資材の楽しい使い道が思い浮かばなかった。それでいいのか?私はいったいどうなってしまったのだ?何のために仕事をしている?

いちど違和感に気づくと、自分のあらゆる行動が不適切で、問題を抱えているように見えた。研究費用を捻出することはいつの時代も大変で、まだシニアのような信用を勝ち得ていない私の年齢で、数百万円、数千万円の研究費を使える機会は稀有であろう。年間一千万円近い研究費は、ふつうそのキャリア黄昏に、膨大な業績リストの上に支給され、組織運営等沢山の業務の合間を縫って取り組むものだ。その頃には自身の眼や手はかなり自由が利かなくなっていて、スタッフに頼んだり、あるいは学生の成長に期待することになる。

振り返ってみると、数ヶ月前も研究拠点になりそうな建物への先行投資を考えたことがあった。来年体制維持に怯え、場所だけでも研究者でいられるように確保しようとしたのだ。思うにいまの私は「金勘定で忙しい今が落ち着いたら研究をしよう」と考えている。これでは鬼に笑われる。

単年でも研究できると思ってはじめたはずだ。それがいつの間にか、いま研究に没頭していない言い訳を、来年経営心配のせいにするようになっていた。研究をすすめるための振る舞いの代わりに、研究者を名乗るための、名乗り続けるための振る舞いをしている。

  • 普通のサラリーマンに魅力を感じず、研究者を目指そうとしたら、結局サラリーマンに落ち着いちゃうジレンマ いっそ狂気に身を投げて、金とかを気にせず目の前の研究に没頭するし...

  • https://anond.hatelabo.jp/20200812041351 数年単位で企業経営できてて、研究のことが理解できて、研究費くれて論文書かせてくれる社長って、若手研究者からしたら神以外の何物でもないんだけ...

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