その頃、駅前通りに商店を構えていると言えば、奥様、旦那様と呼ばれる身分。街の一等地に店を構える裕福なお店という扱いだったとか。
その中にあった、老舗のお店の奥様が、旅館のダンスホールで知り合った男性と良い仲になり、こどもと旦那を置いて家を出てしまった。そして、旦那に届く手紙。
奥さんを返して欲しかったら、そこそこの金額を用意しろと。奥様が惚れた男はヤクザで、女を引っ掛けるのを生業にしていたらしい。
妻がみずから家出しているのに警察にもいけず、悩んだあげく旦那は要求をつっぱねた。
店を守るため、対面を守るための決断だった。
それきり奥様は帰らなかった。
その後、何年もたち、大きくなった息子が店をついだが、少しずつ駅前通り自体がさびれ、今となっては賑やかだった通りもがらんとしたシャッター街になってしまった。